3月に朝日新聞デジタルで配信した連載「この差はなんですか? ジェンダー不平等の現在値」には、読者からたくさんの反響が寄せられました。
給与や昇進など、女性の行く手を阻むさまざまなジェンダー格差の中で、とりわけ強い反応があったのが、非正規雇用に関するものでした。その内容を紹介します。(まとめ・伊藤恵里奈)
低賃金に耐えられなくなってきた
福岡県在住の女性(46)
非正規雇用のシングルです。正規雇用を望んでおらず、複数の仕事をかけもちしながら、短期間で仕事を変えています。
「職場が1カ所だと、つらくなっても逃げ場がない」と感じています。同じ職場で長時間過ごすことが苦痛です。
正規職員として介護の仕事をしていた時期があります。ですが、病を抱えていて、体調を崩しがちになって続けられませんでした。今はコールセンターに勤めています。
私は子供のころから、人の輪の中に入っていくのが苦手でした。高校を中退したので、望める仕事にも限りがあります。
長期的に心地よい働き方で収入を得られたらと考えています。ですが将来、受け取れる年金の額はとても低いでしょう。
海外で仕事を得られるようなキャリアも積んできていません。どうすればもっと継続してキャリアを積んでいけるのか、私にはわかりません。
コロナの流行と物価高で、さすがにいつまでも低賃金なのに耐えられなくなってしまいました。
正社員になった方が、生活は楽になるかもしれない。ですが、一番いいのは、アルバイトのように非正規雇用であっても、働いた内容にみあう、生活ができる賃金が得られる世の中になることです。
女性はパートや派遣 「仕事の成果みて」
関東在住、接客業の50代女性
記事を読んで、「私の苦境は私自身のせいではない、社会や政治が悪いのだ」と改めて思いました。
23歳で社会に出て正社員になりましたが、パワハラにあうなどして4年間で退職しました。その後、派遣社員として職場を転々としながら、10年以上正社員の職を探しましたが、スキルも何もないので、面接で落ち続けました。
ある会社で長期間派遣社員として働いた後、30代後半で正社員の声がかかりましたが、リーマン・ショックの影響で解雇されました。
その後、200社以上応募しましたが、正社員として採用されませんでした。
インバウンド(訪日外国人客)の需要にあてこんだ旅行会社にアルバイトで潜りこむも、東日本大震災がおきて解雇されました。
40歳を超えて、今の会社に採用されました。首都圏で接客業をしております。5年以上働いていますが、非正規社員のままです。
先日、「正社員にならないか?」と声がかかりました。ただ、正社員になると配置換えがあるので、今まで磨いてきたスキルを手放さないといけません。このスキルで最後の転職をしようと狙っています。
今の職場では、私のように非正規雇用で働く中高年女性がとても多いです。男性だから正社員、女性はパートや派遣と分けて給料に著しい差をつけるのではなくて、仕事の成果をみて待遇を決めほしい。
今のままがいいとは思いませんが、生きるためには働かなくてはいけない。
「政治と社会に復讐したい」
必死で仕事しても自立できない給料で、中高年の女性たちは我慢しないといけないのでしょうか。ダブルワークをしなくても、安心して生活できるようにしてほしいです。
求職を続けて、気がついたら独身のままです。親と一緒に暮らしてます。幸いにも貯蓄があり、ローンの支払いを終えた家があります。あとは趣味の株でうまく資産を増やしていきたいです。
「仕事ができないのに私たちの倍以上の給料をもらってぬくぬくとしている政治家たちより稼ぐにはどうしたらいいのか」と日々考えています。
復讐(ふくしゅう)したい。今までの30年間の私が味わってきた苦労を、政治と社会にぶつけたい。
オランダ在住の舞台照明デザイナーの女性(37)
かつての日本で自分が置かれていた境遇を思い出しました。
私は舞台の照明の仕事に従事しています。16年間日本でキャリアを積んだ後、欧州に移りました。
日本では舞台の裏方の仕事に就く若手の過半数が女性でしたが、こちらでは圧倒的に男性が多いことに驚きました。
欧州で働いて分かったのは、日本の舞台業界の賃金や待遇がいかに劣悪であるかです。記事で紹介されたように、「経済的自立が必要ない」と思われがちな女性に、低賃金で非正規待遇の仕事を担わせる構造が、日本の舞台業界で働く男性が少ない原因だと気づきました。
日本にいる頃、結婚や出産で現場を離れる女性を多く見ました。勤務時間の融通が利かず、職場から疎まれて配置換えになるケースもあれば、長時間労働と家庭の両立ができず自ら現場から遠のくこともよくあります。
数年前に聞いた話では、日本では業界大手の会社であっても、専門学校を卒業した20歳の新人社員の給料は、みなし残業30時間込みで額面の月収が16万円だそうです。とても暮らしていけません。
私もかつてそうであったように、構造的な問題に気付く俯瞰(ふかん)的視線が培われる前の若い人は、最初に就いた仕事の環境が劣悪でも、「そういうもの」と信じてしまいがちです。
一方で、欧州では、国や労働組合の取り決めが厳しい。一日の就労時間、連続勤労日数、例外的な残業の後の休息義務時間など、さまざまな規定があります。
専門性をいかせる仕事をしながらも、職場に遠慮する必要なく、子どもと過ごす時間が格段に増えました。
「こういうもの」とあきらめずに
日本にいた時は「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を「仕事だけでなく、少しはプライベートも充実させる」というニュアンスで捉えていました。
ですが、こちらで過ごすうちに「プライベートが土台としてある上で、仕事も充実させることだ」と実感しました。
日本でも、男性の育児参加やリモートワークの普及、飲酒運転に対する厳罰化など、過去20年で社会が大きく変わったことはたくさんあります。
日本の労働環境も「こういうもの」とあきらめずに、当事者たちが声を上げてこそ、業界や社会を動かしていけると思っています。
肩書ばかり重視する日本
フランス在住、金融業の女性(42)
現在、フランスで暮らしています。記事を読んで、日本で一般的な履歴書の書き方に違和感を覚えたことを思い出しました。
欧州では、バイトか契約社員だったかよりも、どんな仕事をやったか、どんな成果を上げたか、ということをフォーカスして履歴書を書かないと見てもらえない。
一方、日本では、どんな雇用形態だったかが重視されています。
また、海外では履歴者のフォーマットに決まりはなく、ワードなどで自作するのが一般的です。日本では履歴書が市販されていて、便利な半面、記載スペースが限られていたり、丁寧にも記入例がついていて形式に沿って回答するよう誘導されたりしています。すでに用意されている様式を使わないといけない会社もあります。
そういった自由度の低さも、経験ではなく雇用形態をより重視するような差別を生み出す原因になっているのではと考えます。
日本にはない「ジョブ・ディスクリプション」
そもそも、日本の雇用契約には、ジョブ・ディスクリプション(職務の内容を詳しく記述した文書)がなく、なし崩し的にいろいろなものが盛り込まれる可能性を常に秘めています。ジョブ・ディスクリプションがあれば、問題が即座に解消するものではないとは思いますが、少なくとも「女性だからこれをやってもらう」という観念は薄まるのではないでしょうか。
海外に出ていったとはいえ、私は日本で生まれて育ち、自国びいきです。日本がどこの国よりも住みやすい社会になってほしいと願わずにはいられません。今後、日本の社会が本当の意味で男女平等になっていくように願っています。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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