高さ120メートルの排気筒の中をてっぺんまで延びているはずの配管が、根元で途切れていた。東京電力福島第一原発の事故調査を進めていた原子力規制委員会は今年1月、見過ごされていた設計の不備を記した報告書をまとめた。
配管は、10年前に炉心溶融(メルトダウン)を起こした1、2号機につながっている。空だき状態になった原子炉を囲む格納容器の圧力を下げるため、放射性物質を含む蒸気や水素ガスを外に放出する「ベント」で使うものだ。
1、2号機の共用排気筒の根元部分には、事故直後から謎があった。放射線量が1時間あたり10シーベルト以上と人が容易に近づけないほどで、3、4号機の排気筒と比べても異様に高かった。なぜ汚染がひどいか。事故10年を前に未解明事項の調査を再開した規制委が、写真や図面を精査する中で見えてきたのが、ベントの配管が根元で止まっているという、思いもよらぬ事実だった。
このせいで、外部に出るはずだった放射性物質の一部が排気筒の中に蓄積し、根元部分にたまったと報告書は結論づけた。
ベントの成否に直接の影響はなかったが、規制委の更田豊志委員長は、水素が排気筒内に出る構造だったことを問題視する。高濃度の水素が空気中の酸素と混ざれば、水素爆発のおそれがある。排気筒が壊れれば、事故はより深刻になっていた。
ベントの配管は、1992年に国が求めた「過酷事故対策」で追加された設備の一つ。79年の米スリーマイル島、86年の旧ソ連チェルノブイリの原発事故を受け、炉心溶融に備える目的だった。ただ、電力会社の自主的な取り組みとされ、国が詳しい設計や施工を確認することはなかった。
「当時も水素のことは意識されていたのに、なぜああいう設計になるのか。どこまで真剣だったのか」「どうぞお任せくださいと言った電力がどう取り組んだのか。信用を得たいなら、過去について正直に語るべきだ」。報告書公表後の記者会見で更田氏は不信感を隠さなかった。
排気筒の爆発はあながち杞憂(きゆう)とは言えない。配管がきちんと上まで延びていた3、4号機でも、3号機の水素が4号機に逆流し、運転停止中だった4号機の建屋の爆発を招いた。
配管が途切れていた経緯はいまだ明らかでなく、規制委は同型の他原発についても確認していく。東電は朝日新聞の取材に、「設計段階で十分な考慮がなされていたとは言えない」と認めつつ「理由は追えていない」と答えた。(川田俊男、編集委員・佐々木英輔)
「最悪シナリオ」は半径250キロ
東京電力福島第一原発で発覚した「途切れた配管」は、事故前の対策の「本気度」を疑わせる一例に過ぎない。原子炉が冷やせなくなれば事故は一気に深刻化する。だからこそ、あらかじめ設備や手順を整えておく必要があった。
10年前の3月11日、福島第…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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