「ほら、今日もガラガラでしょう。コロナのせいですよ」。誰もいない待合室を見やり、70代の男性医師がため息をついた。広島市中区の内科クリニック。診察室の裏に控えた看護師たちも所在なげだ。
いつもは高血圧や糖尿病などの高齢の患者が多い。定期的に受診し、薬を飲み続けてもらう必要がある。ところが新型コロナウイルスが広がり、受診を控える人が増えた。院内や行き帰りでの感染を恐れるのだろう。患者が通常の半数にとどまる日もある。男性医師は「感染が怖いのも分かるが放っておけば持病が悪化しかねない」と案じる。
▽減収とコスト増
県西部の内科クリニックも患者が減った。「いつもの薬、3カ月分出しといてくださいや」。最近、そんな頼まれ事が増えた。院長の男性(43)は笑顔で応じつつも、不安が胸をよぎる。「また1人、定期受診の患者が減る。このままだと経営が成り立なくなる」
スタッフ7人を雇う立場だ。なのに4月の患者数は通常の7割ほど。一方で感染防止対策のコストは膨らむ。自宅でオンライン診療を受けたい人のためにテレビ会議システムを導入した。フェースシールドも購入した。4月分の診療報酬が国から支払われるのは6月だが、院長は「収入減は目に見えている」と憂う。
いつも頭にあるのはスタッフのこと。みんな、感染リスクを承知で働いてくれる。ある看護師は子どもの預け先が臨時休園になった。それでも夫や親の協力を得て働き続けてくれる。「誰の給料も減らさないと誓いを立てた」と院長は言う。「ただ私もいつまで前向きでいられるか」。自信を持てずにいる。
広島市医師会が運営する千田町夜間急病センター(中区)も患者が激減した。内科の4月の患者数は、前年の3分の1の1日5人ほどに減った。田代忠晴センター長(67)は「通院を我慢して症状が悪化する人もいるんじゃないか」と心配する。
患者が大幅に減り続ければ「重大で深刻な影響が出る」―。民間を中心に約2500病院が加盟する全日本病院協会や日本医師会は1日、加藤勝信厚生労働相に要望書を出した。経営破綻を避けるための対策を求める。
▽給与カット示唆
既に現場は揺らいでいる。「うちでは給与カットをほのめかされた」。周南市の病院の職員女性(45)は打ち明ける。入院患者は多いが、外来を一時閉鎖した。上司から「病院全体では減収」と聞いた。
感染が疑われる患者が入院することもある。女性は「コロナの不安と隣り合わせでも頑張っているのに、残業しても残業申請すら受け付けてもらえない。もうモチベーションを維持できない」と嘆く。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース