北海道の知床世界自然遺産と言えば、川を遡上(そじょう)するカラフトマスやサケを追うヒグマを想像する人は多いだろう。アイヌの人々がキムンカムイ(山の神)と呼んだヒグマは貴重な観光資源だ。しかしそのヒグマにいま、気になる個体が現れている。「人に近づくとおいしい食べ物が手に入る」と学んだ野生動物が人間との一線を越えてしまったら……。SDGs(エスディージーズ)(持続可能な開発目標)とも密接に関わる問題だ。
知床には今、気がかりなヒグマが2頭いる。「連続犬食い事件」を起こした個体と、人にストーキング(つきまとい)する個体だ。いずれも捕獲されていない。出くわした人が対応を誤れば最悪の事態も想定しなければならない。
拡大する知床横断道路(国道334号)を車で走行中、目の前を子グマ2頭を連れた母グマがゆっくりと渡り始めた。衝突を避けるために車を止め、車内からカメラを向けた=2015年7月、北海道羅臼町、神村正史撮影
「犬食い」は知床半島の東側の羅臼町で発生。これまでに4カ所で飼い犬5頭が食べられている。
最初の被害は2018年8月1日。海岸近くで飼われていた犬2頭が襲われた。1頭は鎖につながったまま腹を食われ、もう1頭は鎖が切られ、ヒグマが死骸を埋めようとしていた。
翌19年7月10日夜には、外で飼われていた犬がしきりにほえ、突然静かになった。飼い主が翌朝見ると、犬がいない。町職員らが血痕をたどると犬の毛が見つかり、ヒグマに食われたと断定された。
それから17日後の7月27日朝には別の民家から「犬がいない」と通報があった。町職員らが駆けつけると、近くの草やぶからうなり声が聞こえ、ヒグマが逃げ去った。そこには犬の死骸があった。その1週間後の8月3日にも、別の民家の外で飼われていた犬がヒグマに襲われた。
遺留物をDNA解析した結果、すべて同じオスの成獣の仕業と推測された。
人とヒグマが近づいています。知床の観光客による「クマ渋滞」は、もはや風物詩です。記事後半で現状を詳しく紹介します。
ストーキングするヒグマは今年…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル