埼玉県川口市を中心に約2千人が暮らすとされるクルド人への新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいない。在留資格がなく出入国在留管理庁から一時的に釈放されている仮放免の人が多く、市が所在などを把握するのは住民登録などをしている500人程度。そのためクルド人側に接種に関する情報が伝わらず、副反応に対する理解不足も相まって伸び悩んでいる。
10月末、クルド人の30代男性と20代女性が、支援団体の女性とJR川口駅東口の旧そごうにある集団接種会場に来た。
男性は「早く接種したかった。職場の仲間で集まっても打っていないのは私だけ。肩身が狭かった」と話す。しかし、付き添いの女性に教えてもらうまで、どうしたら接種できるか全然わからなかった。「仮放免中だから保険に入れない。もしコロナにかかったら医療費は高額になり払えない。やっと安心できる」と喜んだ。
川口市は6月、仮放免のクルド人を念頭に住民登録のない外国人にも接種する方針を全国に先駆けて打ち出した。だが、実際に募集を始めたのは10月13日からだった。市ワクチン接種推進室は「他部署から応援をもらったが、殺到する一般市民の申し込みへの対応で精いっぱいだった」と説明する。
対象者が多いため、通訳を用意したクルド人専用の日の設定や今月で閉じる集団接種会場を再び使うことも検討したものの、11月5日現在で仮放免中の希望者は70人にとどまる。
同様のことは5、6月に実施した無料のPCR検査でも起きた。3千人を予定し、800人は外国人を対象にした。居住実態があれば住民票がなくても受け付けた。クルド人は集団で生活することが多く、クラスター(感染者集団)の心配もあったためだ。しかし、検査した2081人のうちクルド人を含む外国人はわずか78人だった。
市は仮放免の人に住民登録がないため実態把握ができないことを要因に挙げる。頼みの支援団体も川口や蕨に住むメンバーはわずかで実態把握は難しい。
支援団体によると、情報不足からワクチン接種への理解が進まず、接種後の副反応への極度の恐れ、「接種すると子どもができなくなる」というデマも拡散しているという。
今回付き添った女性が知り合いの17人にLINEで尋ねたところ、「日本で注射して死んでいる人がたくさんいる」(20代男性)、「妻が接種を恐れている」(20代男性)、「仮放免の人は接種の権利がないと思っていた」(不明)といった回答があった。この女性は「接種して行政機関に個人情報を知られると収容につながると恐れている人も多い」と話す。
市や支援団体は仮放免のクルド人に収容の不安のない形で身元保証の仕組みをつくることを国に求めている。昨年12月には奥ノ木信夫市長は法務大臣を訪ねて訴えた。
しかし、国に具体的な動きはない。ワクチン接種に限らず、クルド人の実態を把握して情報伝達手段をつくって様々な問題に対応することは、日本人にとっても大事なことなのだが。(堤恭太)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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