進むファスト化、「もっと」と求めるのではなく リロン編集部から

吉田貴文

 「スローライフ」で知られる文化人類学者の辻信一さんを20年近く前に取材した。携帯電話が普及しつつある頃だったが、速さや効率を「もっともっと」と追い求めないよう「携帯は下手なままでいます」と語っていたのが記憶に残る。

 今では、桁違いに効率的になったスマートフォンを大半の人が持つ。社会のファスト化が加速度的に進む中で、「ゆっくり」はまだ意味を持つのか? 「スロー」をめぐる価値や思考を問い直すインタビューシリーズを企画した。

 1本目は「リアルの場の力を 宇野常寛さんが考える『遅いインターネット』の次」(9日配信)。宇野さんは「今のインターネットは速すぎて、人間に考えさせない装置となっている」と語る。自らが提唱した、あえてネットでじっくり思索する「遅いインターネット」の取り組みは問題提起にとどまっているとし、「速いネット」に対抗する場を実空間に作る取り組みを始めた。

 2本目の「『スローニュース』再始動の戦略は 瀬尾代表がつなぐ調査報道の価値」(10日配信)で瀬尾傑さんは、手間と時間がかかる調査報道の情報は信頼でき、民主主義に不可欠と指摘。新たなコミュニティーづくりを目指す。

 3本目は「『鈍考』で知る90分の価値 幅允孝さんが読書空間で問う遅効性とは」(11日配信)。幅さんは「即効性からはあえて鈍くあり、自身のペースで深く考える場所」として、京都の山あいに完全予約制の私設図書室をつくった。

 共通するのは、人間が主体的に考える時間を大切にする点だ。忙しさを口実に、速さや効率を「もっともっと」と求める自らを省みた。(吉田貴文)

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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