6月23日、関西電力は美浜原発3号機(福井県美浜町)を約10年ぶりに再稼働させた。3号機は運転開始から40年以上が経っている。このような老朽原発を動かすのは、東京電力福島第一原発事故後、初めてのことだ。日本の原発の歴史がまた一ページめくられた瞬間だった。
福島の事故を教訓に、原発の運転は原則40年とするルールができた。だが、事故対策を強化した新規制基準に適合すれば、1度だけ最長20年間延長できるという例外規定がある。それを基に、原子力規制委員会は2016年、美浜3号機と高浜1、2号機(福井県高浜町)の運転延長を認可していた。
あとは、関電が地元の同意を得られるか。それが今年のテーマだった。まず、高浜、美浜両町長が2月に再稼働に同意した。最後に残ったのが、杉本達治知事の判断だった。いつ、何を表明するのか、取材で探りつづけた。
知事は昨年来、関電に条件を課していた。最も高いハードルが、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外候補地を提示すること。使用済み燃料を県内にため続けないことは、2代前の栗田幸雄知事の時代から求めていたことでもあった。
だが、関電は結局、期限の昨年末までに候補地を示せなかった。一方で、青森県むつ市にある中間貯蔵施設を大手電力10社でつくる電気事業連合会が共同利用する案が浮上。ただ、むつ市は強く反発していた。
事態が動いたのは2月12日だ。県庁で知事と面談した関電の森本孝社長が「選択肢の一つ」として、むつ市の施設に初めて言及。候補地を23年末までに確定できなければ、3基は運転しないと約束した。オンラインで参加した梶山弘志経済産業相(当時)も「しっかり取り組む」と関電を援護した。
杉本知事は面談後、「議論に入る前提はクリアされた」と報道陣に語った。それまでの慎重姿勢からの転換だ。メモを取りながら、「かなり踏み込んだな」と感じた。選択肢の一つと言っても、当のむつ市は依然反発している。候補地の提示と言えるのか、と。
2月の県議会では、姿勢を変えた知事が批判された。国の原子力政策に協力的な県議会の自民党会派も「前提が満たされたという知事の認識は理解し難い」と反発し、議論は紛糾した。
それでも地ならしは着々と進んだ。資源エネルギー庁の幹部らは正月三が日のうちから福井入りし、調整に奔走していた。全国の老朽原発を再稼働させるため、福井県にいち早く先陣を切ってもらいたいという国の執念がにじむ。
国は4月6日、老朽原発に1発電所あたり最大25億円の交付金を出すなどの地域振興策を提示。県議会は再稼働を事実上容認し、判断を知事に一任した。知事は同27日に梶山経産相とのオンライン面談に臨んだ。
「将来にわたって原子力を持続的に活用していく」
経産相はそう約束した。国と県が水面下の交渉で詰めた文言だという。
「県が一番重視しているのはエネルギー政策の将来像。エネルギー基本計画の中身は閣議決定なので、大臣が言えることには限度がある。それでも最大限のことを言ってもらおうと調整した」と県幹部は明かす。
杉本知事は翌28日に記者会見し、同意を表明した。2月からは同意のシナリオがあるかのようにあわただしく手続きが進み、大型連休前の決着となった。
「県民益の最大化が私の責任」。知事は会見でそう強調した。ただ、それは国や関電が県との約束を果たすことが大前提になる。
10月に閣議決定した新たなエネルギー基本計画は、原発について「必要な規模を持続的に活用」と記載。「将来にわたって」の言葉はなく、「可能な限り原発依存度を低減する」という改定前からの表現は残った。4月の経産相の発言からは大きく後退した印象だ。中間貯蔵施設も具体的な進展は見えない。
約束は本当に守られるのか。再稼働から半年たった今も、信じられるだけの材料はそろっていない。(堀川敬部、佐藤孝之)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル