新型コロナウイルスの収束が見通せない中、都会の消費者や子どもたちを呼び込んでいた寄せ植え講座や食体験イベントをオンラインで実施し、農の魅力を伝える動きが広がっている。移動が難しい遠方の人も参加でき、田んぼの風景や音も感じてもらえるなど、オンラインならではのメリットも出ている。
収束後見据え関係づくり
群馬県沼田市の「N3コワーキング&カフェ」。定期的に、オンライン寄せ植え体験講座の配信が行われる場だ。講師は、同県片品村でジニアやケイトウ、マリーゴールドなど約100種類の花壇苗を生産する花苗農家の星野学さん(42)。撮影、司会進行はカフェを運営する若者の起業家有志団体「N3」が担う。 参加者には事前に制作セットが送られ、当日は自宅からスマートフォンやパソコンで受講する。カフェに設置されたテレビには参加者が映り、星野さんが画面越しに質問に答えながら寄せ植えを完成させる。 7月末の講座では、地域のコケや植物をガラスの器に組み合わせる「苔(こけ)テラリウム」を制作。赤ちゃんの世話をしながらの参加や、青森、山梨など遠方からの参加が目立った。星野さんは「周りを気遣いながら講座を受けなければならない人や、移動が困難な人にも受けてもらうことができそうだ」と可能性を感じる。 星野さんは花苗生産の他、利根沼田エリアを中心に埼玉や東京で年間約100回の園芸講座を開いてきた。しかし、新型コロナの影響で3、4月は講座がほとんど中止となった。同時期、パソコンを持ち込み、仕事や会議を行える場所として同カフェのオープンを予定していたN3が、コロナ禍での新たなカフェの使い方として星野さんにオンライン講座開催を持ち掛けた。 N3のディレクター、六本木ユウジさん(40)は「オンライン講座をきっかけに、コロナが落ち着いたときに利根沼田に来てもらえるよう、一層面白い体験を用意しておきたい」と見据える。
「発信力磨き」に意欲 福島県湯川村
福島県湯川村は、昨年都内で開催し好評だった「湯川村食体験イベント」を今年はオンラインで行った。参加者には事前に漬物キット、日本酒、同村産の米「コシヒカリ」、調理済みの料理を送り、「道の駅あいづ 湯川・会津坂下」から動画を配信し交流。コロナ禍で職員が集まれない中、時間配分や画面での見せ方について、SNSなどで打ち合わせを重ねた。 7月のイベントでは、野菜ソムリエの資格も持つ道の駅スタッフらが米のおいしい炊き方や郷土料理「芋三五八漬け」の漬け方を指南した。三澤豊隆村長も登場し村をPR。画面越しに参加者と同じ料理に舌鼓を打った。 これまで東京でイベントをした際は、村をPRするに当たり、写真や限られた商品を持ち込んで紹介するしか手段がなかったが、「オンラインなら当日の村の天気、水田を見たときの風の揺れや音まで伝えられ、実際にそこを歩いているような臨場感を伝えられた」(商工観光係)と手応えを感じる。配信会場を道の駅に設定したことで、村の野菜や加工品を全般的に紹介することができたという。三澤村長は「地域の話を遠方や海外の人とも共有できるのは素晴らしいことで、今後は地域も発信力を磨いていかなければならない」と意欲的だ。
日本農業新聞
Source : 国内 – Yahoo!ニュース