多くのアスリートが活躍した北京冬季五輪。しかし残念なことに、国内外問わず誹謗(ひぼう)中傷問題が注目される場ともなった。スキージャンプ混合団体で失格となった高梨沙羅選手をバッシングする人が、SNSの一部で見られた。また、スノーボード女子ハーフパイプの米国代表クロエ・キム選手は、人種差別を背景とした深刻な中傷被害を吐露した。フィギュアスケート女子の中国代表の朱易選手に対しては、米国生まれということもあって心ない声が止まらず、一時期、投稿者のSNSアカウントに停止措置が取られた。
しかし実は、アスリートへの誹謗中傷問題が大きく取り上げられるきっかけとなったのは、昨年の東京五輪だった。卓球の水谷隼選手、サーフィンの五十嵐カノア選手、体操の橋本大輝選手など、多くのアスリートたちが、誹謗中傷被害について毅然(きぜん)と訴えたのである。それを受けてスポーツ庁も、北京冬季五輪直前に、誹謗中傷をやめるよう改めてメッセージを発信した。
なぜ頑張っているアスリートに対して、SNSでそのような誹謗中傷が投稿されるのか――これを読んでいる多くの人が、そう考えたに違いない。
実際には、アスリートへの誹謗中傷はつい最近始まったものではなく、いつの時代にも起きてきた現象である。スポーツは観客を熱くさせる。そのため、時に居酒屋やテレビの前などで攻撃的なことを言う人が現れる。
問題は、SNSが普及して誰もが世界に発信できる人類総メディア時代になったことで、攻撃の規模が格段に大きくなったことだ。SNSには可視性(投稿内容が誰にでも見られる)、持続性(いつまでも残り続ける)、拡散性(誰でも簡単に拡散できる)という特徴があるためだ。アスリートがアカウントを持っていれば、直接リプライ(返信)やダイレクトメッセージで本人を攻撃することもできる。
「頭を使え」「死ね」「引退しろ」「(容姿が)チャラチャラしてる」……。実際にアスリートに向けられた言葉だ。こうした人権侵害ともいえる現象が横行する中、アスリートたち自身が体を張って訴えることで、やっと社会が注目するようになったのである。
では、この問題にはどのように対処すればよいのだろうか。
まず、国際オリンピック委員…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル