殺人事件として戦後最悪とみられる犠牲者を出した事件から4年半。現在、京都アニメーション第1スタジオは解体され、背の高いフェンスで囲われている。
昨年12月初旬、事件現場を訪れると、敷地に設けられた花壇に小さなガーデンシクラメンや色とりどりのビオラが咲いていた。
3カ月間にわたって22回続いた裁判員裁判が結審を迎えた日、青葉真司被告(45)は青色のジャージー姿で、車いすを職員に押されて入廷。計約1時間半にわたった検察側の論告と弁護側の最終弁論をじっと聞いた。
検察側は死刑を求刑した。青葉被告が事前にガソリンを購入するなどの犯行の準備をしたことや、事件の直前に現場近くの路地で十数分間考え込んでいたこと、懸命に働く従業員を目にしたことなどを指摘し、「引き返すタイミングはいくらでもあったのに実行した。強固な殺意を犯行まで抱き続けた」と主張した。
犯行の動機として、書き上げた「最高のシナリオ」が京アニ大賞に落選し、小説家として身を立てるという夢に破れたことで、うまくいかない人生の責任を京アニらに転嫁したとし、「筋違いの恨みこそが犯行動機の本質。理不尽そのもので身勝手極まりないものだ」と指摘した。
被告自身が公判の当初から繰り返し述べた妄想についても、解釈が添えられた。
「『京アニらに盗用された』という妄想が、動機の形成に影響を与えた」としつつ、「その妄想は、猜疑(さいぎ)的・他責的なパーソナリティーを持つ被告が、筋違いの恨みを強化させた程度で、影響程度は限定的」と訴えた。
一方の弁護側は、「心神喪失で無罪、あるいは無罪でないとしても心神耗弱で減刑すべきだ」として、死刑の回避を主張した。
妄想が与えた影響について検察側とは異なる見解を示した。
「事件当時は長期にわたって妄想性障害に苦しめられ、事件前4カ月間は服薬もせず、新たな妄想や幻聴が生まれ続けている状態だった」とし、「闇の人物と京アニが一体となって自分に嫌がらせをしていると思い、対抗手段として事件を起こした」と訴えた。
さらに裁判員らに対し、「青葉さんは順風満帆とは言えない人生を歩み、最終的には最悪の分岐点を選んだ。病気の影響も受けた。ご遺族の処罰感情は十分くみとられるべきだが、青葉さんには改善の可能性がある」と呼びかけた。
公判が結審したこの日、京アニ作品「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」のキャラクターデザインを手がけた池田(本名・寺脇)晶子(しょうこ)さん(当時44)の夫(51)も法廷に立った。
「青葉さんは強盗などの前科を重ねたあと更生施設に入所し、その後は生活保護を受給するなど、公的ケアにアクセスできていながら、訪問看護など救いの手を自ら拒絶しました。一度ならず二度、更生に失敗しているという事実は決して過小評価すべきではありません。本当によく考えてください。更生に失敗した結果として、36人の命が筆舌に尽くしがたく理不尽に失われました」
◇
青葉被告個人が引き起こしたこととして、この事件は片付けられてよいのだろうか……。裁判の傍聴を続けるうちに、そんな思いが募りました。私たちが暮らすこの社会で、青葉被告はつながりを求めながらも保てず、何度もやり直そうとしました。だからこそ、私たち一人ひとりの課題として、青葉被告の半生に思いをめぐらせることが大切だと思いました。
再びこうした事件を起こさないために社会に何ができるのか。続く第2部では、識者とともに考えていきます。
(第1部おわり)
連載「螺旋」第2部は、22日8時に配信予定です。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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