日本海溝・千島海溝沿いを震源とする巨大地震は、冬に発生すると人的被害が最大になると予想されている。冬の北海道で、寒さや津波などの脅威から命を守るためにはどうしたらよいのか。北海道が昨年7月に公表した被害想定の検討メンバーで、寒冷地防災に詳しい道立総合研究機構の戸松誠・研究主幹(51)に聞いた。
――冬に災害が発生すると、道内で人的被害が大きくなるのはなぜでしょう。
「巨大地震が起きると大半は津波で亡くなると予想しています。浸水域にいる人はいち早く安全な場所に逃げなくてはいけませんが、冬は防寒具などを着込むため避難開始が遅れがちになり、外に出れば積雪や路面凍結で思うように移動できなくなります。大きな揺れと積雪によって建物が倒壊し、室内に閉じ込められる危険性も増します。また厳冬期は寒さ自体がハザードになります。水にぬれれば低体温症で命を落とす人も出てくる。避難所に逃げ込んでも寒さ対策が不十分だと健康を害する人が増えます」
――道の被害想定では発災時間が「冬の深夜」より「冬の夕方」の方が死者数が大きくなりました。
「今回の想定では、建物の位置や道路ネットワークなどのデータのほか、昼夜間人口も考慮して分析しました。夕方が最大になったのは、工場などの事業所を抱える都市の沿岸部に人が集中しているからです。災害は時間と場所を選んでくれません。ハザードマップは自宅周辺だけではなく、普段通っている職場や学校の周辺も見ておくべきです」
「一方、多くの人が就寝中の深夜の発生が危険であることは変わりません。今回の想定で人的被害が最大となったのは、あくまでも太平洋沿岸の38市町の死者数の合計の数字。市町ごとの数字をみると、登別市や北斗市などでは冬の深夜の方が死者数が多くなります。自治体ごとの数字をぜひ確認してください」
――国や道は防災インフラを整備し、避難開始時間を早めることで被害が大幅に減らせるとしています。
「避難開始時間を早める重要性については2021年10月に浜中町と道総研が実施した避難訓練で興味深いデータが得られました。参加者の避難速度のデータを取り、津波避難困難地域の課題を洗い出す取り組みです」
「町民665人が徒歩で高台を目指す訓練で、10~92歳の50人に全地球測位システム(GPS)端末を持ってもらいました。位置情報と道が昨年7月に公表した津波浸水シミュレーションを重ねた結果、地震発生から5分後までに避難を開始した場合は全員が避難できました。一方、避難開始時間が15分後になると、浸水区域を脱することができない人がたくさん出ました。わずか10分の違いが命を左右するとわかったのです。避難速度が低下する冬は、避難開始をさらに早めていく必要があります」
――命を守るため、行政や住民ができることは。
「ソフト、ハード両面の対策…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル