築70年超の警視庁最古の交番が老朽化を理由に閉鎖された。JR上野駅の構内(浅草口)にあった「上野駅交番」だ。緑色の表札、石を削ったような外壁、大人1人通るのがやっとの間口――。ノスタルジーを感じさせる外観だった。戦後の闇市や高度成長期の地方からの集団就職、49年前のパンダの初来日、美術館での話題の催事などを見守ってきた。希望や安心、落胆や寂しさ。様々な思いが交錯した交番最後の1日に記者が密着した。
「当番員に注目、直れ、地域第2係第1当番勤務、大交代。実施いたします!」「引き継ぎ事項、特にありません!」
3月18日午前9時、日勤の警察官が、夜勤の同僚から引き継ぎを受けた。東京都内の交番は原則、日勤と夜勤で勤務員を分けている。継続して対応すべき事案の情報共有は必須だ。
動物園、公園、美術館、博物館、大学、「アメ横商店街」、焼き肉街、台東区役所――。上野駅周辺は観光地や公の施設が多く、夜は繁華街もにぎやか。交番では四六時中、道案内や遺失物の対応、酔客のトラブル対処に追われてきた。
最後の日、大きな事故や事件は…
出勤ラッシュが落ち着いた午前10時半ごろ、東京都新宿区の女性(69)が「切符売り場はどこでしょうか?」と訪ねてきた。女性は北海道出身で大学進学時に上京、当時、「東京の北の玄関口」と呼ばれた上野駅で降りたという。「不安で不安で、涙を流しながらこの駅をくぐった」と思い出を話してくれた。交番の閉鎖は知らず、「この辺りも随分様変わりしました。古い交番がなくなるんですか……。寂しいものですね」。道案内をしてくれた警察官に「親切にありがとう」と伝え、切符売り場へ向かった。
同じ頃、東京都江戸川区の専門学生、阿部紗弥佳さん(20)が道を尋ねてきた。4月から富山県の動物園で飼育員になる。上野駅近くの不動産屋で現地で暮らす家を探せると知り、案内の予約を取ったが、店にうまくたどり着けなかった。警察官と地図を見ながら、道順を確認。「教えてもらい助かりました。いい部屋を見つけられるかドキドキです」
午後0時半。東京都豊島区の男性(73)が困った表情で駆け込んできた。近くのATMにスマートフォンを忘れ、取りに戻ったが見つからなかったそうだ。
上野駅交番が昨年1年間に受け付けた拾得物は約1500件。1日あたりの平均は約4件だが、無事に見つかることは多くないという。
男性が遺失物届を書いていると…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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