重い心理的負荷、パワハラは確認できず 宝塚歌劇団員死亡の報告書

 宝塚歌劇団員の女性(25)が死亡した問題を受け、弁護士らでつくる調査チームの報告書の要旨は次の通り。

調査方法

 9人の弁護士が劇団員62人や、劇団役職員、女性の遺族らにヒアリングを実施した。情報収集には限界があり、今後訂正する可能性がある。

いじめの有無

 女性は2021年8月14日、ロッカー室で劇団員Aから髪形の指導を受けていた。Aが女性の前髪をヘアアイロンで巻こうとした際、額に当たり、小指の第一関節から先程度の長さのやけどを負った。目撃者はいなかった。女性はこのことを劇団側に伝えなかった。

 女性が翌日に母親に送ったLINEメッセージからは、Aが故意に当てたのではないかと疑っていたことが認められる。他の劇団員へのヒアリングでは、女性がAからいじめられていたとの供述はなかったが、Aを苦手にしていたとの供述が比較的多くあった。

 23年1月30日に劇団が週刊文春の記者から事実確認を求める取材を受けた後、プロデューサーが女性とAに別々に事情を聴いた際のメモには、2人とも故意ではないと答えたとの記載があった。劇団理事長ら幹部のパソコンのデータにも、女性のヒアリング結果を隠蔽(いんぺい)・改変した形跡は見当たらなかった。

死亡直前の事実関係

 女性が所属する宙組は9月29日に始まる本公演に向け、8月16日から公式稽古があった。公式稽古は午後1~10時に行われることが多く、女性を含む劇団員はその前後に自主稽古や、かつらやアクセサリーの準備などをしていた。

 女性は入団7年目で、10月19日の新人公演を取りまとめる立場だった。新人公演の最上級生は「長の期」と呼ばれ、女性は代表者の「長」として、稽古のほか、演出担当者や衣装部とのやりとりも担っていた。

 長の期は、新人公演のメンバーの失敗について上級生から指導・叱責(しっせき)される立場で、下級生に対しては「組ルール」の順守を指導する立場でもあった。新人公演の稽古は本公演後の夜にあり、過密スケジュールの中、本番までに仕上げる切迫感と重圧があったと認められ、心理的負担は小さくなかったと評価できる。

 劇団は劇団員と、入団後5年間は1年ごとの「演技者専属契約」(雇用契約)、6年目以降は1年ごとの「出演契約」(業務委託契約)を結ぶ。入団7年目の女性はタレント(個人事業主)として扱われ、劇団は「労働時間」を管理していなかった。

 女性の活動時間を試算すると、直近1カ月に118時間以上の時間外労働があったことになる。深夜帯にかかる長時間の活動で睡眠時間が十分に確保されない中、休日の9月16日と25日にも活動した可能性が高く、精神障害を引き起こしても不思議ではない程度の心理的負荷があった可能性は否定できない。

上級生の指導

 女性は同級生と相談の上、新人公演の配役表を発表日(8月31日)の前日にメンバーらのLINEグループに送った。だが、このことを組長に問われ「送っていない」と答えたため、組長と副組長から指導を受けた。

 また、新人公演に向けて殺陣やダンスナンバーを上級生から教わる「振り写し」などをめぐっても、女性は9月に組長から指導や叱責を受けた。

 ただ、これらは業務上の必要性が認められ、大声や人格否定は伴わず、社会通念に照らして許容される範囲を超えるものとはいえない。

原因の考察

 過密スケジュールをこなしながら、過酷な新人公演の稽古も予定されていた。「長の期」の活動に従事しなければならなかったことや、公演内容が難しかったなどの事情に加え、上級生からの指導も多く重なった。

 ヒアリング結果によれば、女性は組内の親しいメンバーに対し、「上級生についていけない」「叱られるのが嫌だ」。家族に対しては「とにかくずっと怒られているから、何で怒られているかわからない」「叱られていることに何とも思わなくなってきた」と述べていたことが確認できる。

 厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」を踏まえれば、精神障害を引き起こす程度の心理的負荷がかかっていた可能性は否定できない。

劇団への提言

 多くの劇団員から「過密なスケジュールがつらい」という意見があった。年間興行数を9から8に減らす、週当たりの公演を10から9に減らすなど、具体的な見直しに速やかに着手すべきだ。

 「自主稽古」も参加が事実上必須になっているという意見が多数出た。劇団は実態把握に努め、本来の意味での自己研鑽(けんさん)の場になるよう検討し、実行に移すべきだ。

 組内の運営をスムーズに進めるための「組ルール」も、合理化を促し、不必要なルールが新たに生まれていないか定期的なレビューを行うよう求めるべきだ。

 劇団員が安心して相談できる通報窓口の設置のほか、継続的に劇団の業務を監視する組織的な体制の構築も検討すべきだ。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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