関西電力元役員らの金品受領や役員報酬の補塡(ほてん)などの問題で、大阪地検特捜部は9日、会社法の収賄や特別背任などの疑いで市民団体から告発された森詳介元会長ら元役員9人全員を不起訴(嫌疑不十分)とし、発表した。市民団体は処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てる方針。
不起訴となったのは、森元会長のほか、八木誠前会長▽岩根茂樹前社長▽豊松秀己元副社長▽八嶋康博元監査役――ら9人。
関電の第三者委員会が昨年3月に出した調査報告書などは、元役員ら83人が、原発がある福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)側から30年以上にわたり、計約3億7千万円相当の金品を受け取ったと指摘した。また、東日本大震災後の電気料金値上げに伴って減額した役員報酬について、役員の退任後に相談役などに委嘱する形で、関電側が計約2億6千万円を補塡していたことも判明した。
特捜部は昨年10月に市民団体の刑事告発を受理。元役員らを任意で聴取するなどして捜査していた。
特捜部は、金品の受領について、会社法の特別背任罪や収賄罪に問えるかどうかを検討。元役員らが事情聴取に対し「預かり保管していた」と説明したことなどを踏まえ、関電が元助役の関連企業に対し、不適切に工事発注したとは認められないと判断した。会社法の収賄罪の成立には森山氏からの「不正の請託」が必要だが、森山氏は既に死去しており、立証は難しかったとみられる。
一方、役員報酬の補塡をめぐっては、国税当局が7月、補塡は退職金を嘱託報酬に仮装した「所得隠し」とみなし、重加算税の対象とした。関電も、旧経営陣を提訴した民事訴訟で、補塡を決めた際に「嘱託先の業務の対価とは考えていなかった」と認めた。
だが、特捜部は「退職後も嘱託として関電のために働いており、正当な報酬だった」とする元役員側の主張を検討し「嘱託としての業務実態がなかったとはいえない」と判断。補塡を決めた役員が任務に反したとはいえず、特別背任罪にはあたらないと結論づけた。
村中孝一特捜部長は「起訴方向、不起訴方向の両面から何度も検討したので時間がかかった」と述べた。
森元会長ら元役員7人の弁護団は「適正・妥当な判断。被告発人の名誉が回復されることを願う」とのコメントを出した。関電は朝日新聞の取材に対し「当社は当事者ではなく、お答えする立場にない」とした。(松浦祥子、浪間新太、加茂謙吾)
関西電力元役員らの金品受領と役員報酬の問題をめぐる主な経緯
1987年 福井県高浜町の元助役から関電幹部(当時)らへの金品提供が始まる
2011年 東京電力福島第一原発事故。その後、すべての原発が運転停止
12年 役員報酬を減額
13、15年 電気料金を値上げ
16年4月 役員報酬の補塡(ほてん)方針を決定
19年9月 金品受領問題が報道で明るみに
20年3月 第三者委の調査報告書で、役員報酬の補塡が明らかに
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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