今年は全国各地で赤字ローカル線のあり方が議論になった。四国でも、JR四国の西牧世博社長が存廃の議論を自治体と始める候補となる路線を初めて挙げた。その一つが予土線(愛媛、高知両県)だ。
地元自治体は危機感を強め、10月27日、両県でそれぞれ利用促進に取り組んできた協議会を一本化する会議を開くと聞き、高松から取材に出向いた。
会場の愛媛県松野町役場は、予土線松丸駅から徒歩5分。ちょうど開会の30分ほど前に同駅に着く列車があった。列車の到着時刻に合わせて会議を設定したのかとさえ思った。始発の宇和島駅から乗ったが、予想に反して出席者の姿はなかった。
鉄道の利用促進を話し合う関係者が、誰も鉄道を利用しないのは自己矛盾では。沿線首長の一人は私の問いに「ここに来る前、別の場所で用事があった。申し訳ない」と釈明した。
とはいえ私自身、取材に出かけるときは車を使うことが大半だ。公共交通を利用することで応援したいと考えても、本数が少なかったり、駅から離れた目的地への交通手段がなかったりして断念することは少なくない。
バスをはじめモビリティーの動向に詳しい中村文彦・東京大大学院特任教授は「無理して(公共交通を)使っても続かない。自家用車を公共交通に切り替えることが難しければ、公共交通を使う外出の機会を新たに作るアプローチもある」と提案する。
駅や乗り場まで歩くのは健康に良い。移動の間に仕事や食事、睡眠ができ、お酒も飲める。地球温暖化防止に協力できる。中村特任教授は、公共交通のそんなメリットを考慮しながら、自家用車と公共交通を使い分ける人たちを「チョイス層」と名付け、これらの人たちの公共交通利用の機会を増やす取り組みが鍵になると指摘する。
鉄道やバス、タクシーなどの事業者を取材すると「利用者がコロナ禍前の水準に戻らない」との嘆きをよく聞く。回復の道は、乗るか、乗らないかの二者択一の発想から離れることかもしれない。(福家司)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル