鎌倉の老人ホームが退去要請 平均年齢90歳、入居家族「寝耳に水」

 神奈川県鎌倉市介護付き有料老人ホーム「鎌倉静山荘」で、建物の建て替えを理由に入居者が退去を求められ、混乱が広がっている。

 市や県にも複数の入居者家族から相談が寄せられ、県が施設側に行政指導をする事態になっている。「ついのすみか」となるはずの老人ホームで何が起きているのか。

 鎌倉静山荘は湘南モノレール片瀬山駅に近い高台の住宅街にある。一般財団法人友愛会(鎌倉市)が運営しており、施設の資料によると2022年7月現在入居者は33人。このうち24人が要介護3以上で、平均年齢は90歳だ。

入居者に建て替えを告知する一方…

 建物は1969(昭和44)年に建てられ、2004~05年に改築された。土地と建物を所有する不動産会社「ビーロット」(東京)によると、老朽化が進んだことから約5年前から建て替えを検討し、鎌倉市などと協議を進めていたという。

 建て替え計画は昨年7月に決まり、鎌倉市のホームページでも公開された。それによると、今年12月初旬から24年4月末に建物の解体と関連工事を、同年9月から26年1月末に新築工事を予定しているという。

 入居者によると、昨年7月に当時の施設長名で「施設建て替え計画の告知予定について」と題して、建物所有者から全面建て替え予定の告知を受けていることを知らせる通知が届いたという。

 ただ、通知には「利用者の居住権が尊重される。事業者が一方的な都合で施設利用契約を解除することはできない」とも書かれていた。

入居者家族「わかっていたら入らなかった」

 さらに同年10月末に届いた2通目の文書では、建物を解体して地上2階地下1階に新築することに加え、建物所有者から「23年8月末までに全入居者が退去するよう説明してほしいと要請されている」などと記されていた。

 そして今年4月に届いた3通目には「施設の一時閉鎖要請を受諾した」とし、今年10月末の閉鎖を予定していると書かれていた。

 ただ、「みなさま方が『退去しなければならない』契約上の義務はない。施設利用契約にかかる権利は利用者および家族の意向が第一となる」と添えられていた。

 施設側は5月27日に入居者の家族に建て替え計画を説明したが、家族の間では混乱が広がっている。

 9年前から母親が入居している男性(80)は「ついのすみかのつもりで入居したのに、寝耳に水。退去期限まで時間がなく、27日の説明もきわめて不十分で、大変困惑している」と戸惑いを隠さない。母親の健康状態や環境を変えることにも不安があり、家族が面会に通う都合もあって、現段階では退去は考えていないという。

 1年ほど前から妻の父親が入居している男性(59)は「閉鎖が分かっていたら入らなかった。入居者のことを一切考えていないやり方で論外だ」と憤る。

 県や市にも複数の入居者家族から相談が寄せられているといい、県は5月10日に施設に出向いて報告を求めるとともに、入居者が不安にならないよう、丁寧に対応するよう行政指導をしたという。市の担当者も同行し、サービスが止まることのないよう施設側に伝えたという。

施設「移転は専門家がサポート」

 施設側は取材に「入居者に通知をした認識だったが、実態が伴っていなかった部分があった」としたうえで、「施設の閉鎖時期は入居者との合意が必要になるので、個別の相談を重ねて検討を進める。入居者の移転については施設の往診医など専門家がサポートする予定で、要望や状況をうかがい始めた段階。他の介護事業者などにも相談を始めている。どうしても移転が難しい入居者にも誠実に対応していく」と回答した。そのうえで「今後の対応はより慎重に進めてまいります」としている。(芳垣文子)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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