開けっ放しの心やから沈没しない(大阪の定時制高校へ通う80歳の村田十詩美さん)
仕事、お金、顧客、健康――。コロナはあらゆるものを奪う。閉塞(へいそく)感漂う世の中だが、こんな時はむしろ心を閉ざさない方がいい、と戦前生まれの大阪のおばちゃんは言う。
奪われることの多い半生だった。恵まれた家庭に生まれたが、小4で義父が倒れて暮らしは一変。内職の手伝いで、小学校へ通えなくなった。中学生になると家族と別れ、学校の目の前の酒屋に住み込みで働いた。
17歳で結婚。今度は、酒とばくちばかりで働かない夫の世話に追われ、4人の子育てや仕事に明け暮れた。自由な時間はなかった。
へこたれなかったのは「気にしすぎへんかったから」。大阪人らしく、笑い飛ばしたり開き直ったり。「今日はこれでええやん」とつぶやいては浮上を待つ。「せやから沈没しなかった」
70歳で大阪の夜間中学(守口市立さつき学園夜間学級)に入学した。9年通って昨年卒業し、80歳の今は定時制高校へ通う。孫世代の級友と机に向かい、体育も一緒。先生におまけしてもらって校庭を走る。
夢はいつか、大学へ。生きるという人生の手綱を手放さない限り、人生は始められるから。どこからでも、何度でも。
今はうまくいかなくても「あっけらかんとね」。心の窓を開け放ち、風通しをよくしておけば大丈夫。風向きが変わっても起き上がれる。「前向いて歩かへんかったら、損やと思うわ」(土井恵里奈)
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誰もが経験したことのない日々が続いています。様々な立場、場面の言葉を集めます。明日に向かうための「#コロナを生きる言葉集」。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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