東京都江戸川区の住宅で2月、住人の男性が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕されたのは特別支援学級を担当する同区立中学教諭だった。発生当初、事件かどうかの見極めが続くなかで、捜査を動かしたのは防犯カメラに映った「黒ずくめの男」の存在だった。
17日で逮捕から1週間。捜査関係者への取材で事件の経緯をたどる。
刃物の柄、握りしめ
2月24日午後6時半ごろ。都営新宿線一之江駅から約300メートル離れた住宅街にある住宅で、住民で契約社員の山岸正文さん(当時63)が倒れているのが見つかった。1階の階段下でコートを着たまま。仰向けで頭部や首に切り傷が10カ所以上あった。ペティナイフのような刃物の柄の部分を握りしめていた。
自殺か、他殺か。警視庁は捜査を始めた。
体の傷を詳しく調べたところ、自らナイフで付けたとしては部位や向きが不自然だった。周囲の下水道などを捜したが、手に握った刃物の刃の部分は見つからなかった。山岸さんは食料品を購入して帰宅していた。
一方で、山岸さんの周辺にはトラブルの情報はなく、現場には誰かが窓ガラスを割って侵入したり、室内を大きく荒らしたりしたような形跡もなかった。捜査員の中には「第三者の犯行の線は薄い」との声もあった。
様々な可能性をにらんだ基礎的な捜査が続いた。そして発生から約3週間後、捜査員に具体的な動きが見え始める。
「この人物、見かけませんでしたか」
警視庁が山岸さん宅周辺の防犯カメラの捜査を続けたところ、事件前後に山岸さん宅を訪れたとみられる1人の男の存在が浮上した。
「この人物を見かけませんでしたか」。山岸さん宅の近くに住む女性は3月中旬、捜査員から1枚の写真を見せられた。黒い上下にフードをかぶり、マスクと手袋を着けた男の姿。警視庁が「不審人物」とみる防犯カメラの画像だった。
警視庁はこの「黒ずくめの男」の動きを、複数の防犯カメラの映像をつないでいく「リレー方式」で追った。山岸さん宅に入ったとみられる男は、出た後はジーンズのようなズボン姿に変わっていたが、その姿の映像を追っていくと、山岸さん方から3キロ余り離れた江東区内の住宅街にたどり着いた。
捜査員はその住宅街で聞き込みを重ねた。その中で1人の男が、自ら「山岸さん方に行ったことがある」と話し始めた。山岸さん方から約170メートル離れた中学の教諭である尾本幸祐容疑者(36)だった。
自ら話し始めた男
「1月下旬に勤務先の学校か…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment