陰口が怖かった中学時代 ユーチューバー葉一さんがほしかった言葉

 教育系ユーチューバーとして中高生らから人気の葉一(はいち)さん(38)は、中学でいじめを受け、学校に行くのがつらい時期がありました。「自分が悪い」と思い詰めていたあの時、周りからかけてほしかった言葉があると言います。いま、同じような経験をしている子どもたちに伝えたいことを聞きました。

学校に行きたくない。生きづらい……。夏休みが明ける頃、いつも以上にしんどさを感じる子どもたちが多くいます。「#withyou~きみとともに~」は、そんな子どもたちや、保護者にメッセージを届ける企画です。いじめや高校中退、不登校などを経験した人に、何に悩み、苦しみ、どう対処したのかを語ってもらいます。

女子生徒の集団が怖かった

 中1の終わりごろから卒業するまで、いじめを受けていました。当時ぽっちゃりしていて、女子から「デブ、キモイ」など見た目に対して陰口を言われていました。一部の男子たちからは、階段から蹴飛ばされて転げ落ちたこともあります。

 校内で女子の集団を見かけると、陰口を言われているように感じました。小学校から仲がよかった友達のことも、その集団と裏でつながっているんじゃないかと信じられなくなって。だからいじめられていることを友達にも相談できませんでした。中2以降、怖くて休み時間は廊下に出られませんでした。

 周りは見て見ぬふりという感じで、味方はいませんでした。忘れたいからなのか、実は中学の時の記憶は薄いんですが、あの時のみんなの目線は鮮明に覚えています。生徒に交じって私の容姿をいじり、笑いを取る先生もいました。

 人間不信になり、学校に行きたくなかった。だけど「なんであいつらのために休まなきゃいけないんだ」という気持ちもあって、苦しいけど学校に行っていました。

 当時はいじめのことを親に言えませんでした。私の妹には生まれつき障害があって、親が大変そうなのを見ていたので、余計な心配をかけたくなかったんですね。

 ただ、どうしても行くのがつらくて何回か学校を休んだことがあります。そのとき「休んでいい?」と聞くと、母親は理由も聞かずに「いいよ、わかった」と休ませてくれました。普段通りに接してくれて、休んで気持ちをリセットすることができ、とても救われました。

「自分が悪い」思考の悪循環

 もともと学校は大好き。小学校ではドッジボールやバスケットボールが好きで、学校は友達と会える楽しい場所でした。「あの頃に戻らないかな」と中学時代は願ったりもしましたが、どうすることもできませんでした。何が悪いのか、どうしていいのか分からない。考え続けていると、最終的に「自分が悪い」という考えに帰着していきました。

 「存在することで迷惑をかけているんだ、存在自体が邪魔なんだ」と思い詰め、「自分が消えればいい」と頭の中でぐるぐる考えていました。通学途中に車が行き交う大通りで「いま車道に出れば楽になるだろうな」と思ったこともあります。

 解決できない問題があると、原因を何かのせいにしたくなるものです。簡単なのが自分のせいにすること。だから、自分が全て悪いと思い込んでいたんです。

 あの時、誰かに「君は悪くないよ」と言ってほしかった。ほかの誰かを悪者扱いしたうえでではなく、フラットに「悪くないよ」と。そうしたら、「自分が悪い」「消えればいい」という思考の悪循環から抜け出せていたかもしれません。

 そうした経験があるからこそ、いま悩んでいる人がいたら、声を大にして伝えたい。あなたは何も悪くない。そのままでいいんだよ、と。

「学校に行かない」は一歩前進

 高校は女子がいないところに行きたくて、男子校に進みました。そこで人間関係が変わったことで、いじめはなくなりました。中学時代の体験から、「みんなに好かれなくていい」と開き直ったのもよかったのかもしれません。親友はいなくても、学校に楽しく行けるようになり、そこで出会った恩師の影響で教育関係の仕事を志すようになりました。

 動画配信を仕事にする前、個別指導塾で3年間、講師をしていました。生徒からは、勉強だけでなく、いじめなど個人的な話を打ち明けられる機会も多くありました。その時、自分の経験を話すことで、子どもたちが本音を言いやすくなっていることに気づきました。あの経験があったからこそ、子どもたちにメッセージが届けられるんだと、ポジティブに捉えることができたんです。

 過去の事実は変えられない。でも、その事実の意味は今の自分が変えることができる。そう思えるようになりました。

 親など周りの大人は、子どもが悩んでいるのに気づいたとき、声かけの仕方が難しいですよね。塾講師の時は生徒の様子の変化に気づいたら「いつもと様子が違うって感じたんだけど、なんかあった? 話し相手くらいにはなれるから、話したくなったら来てね」と伝えていました。

 こちらから聞き出すのではなく、相手が話したくなったときに話せる関係を築いておく。「こっちのドアはいつでも開いているよ」とちゃんと伝えておくことが大事だと思います。私も息子には「何か聞いてほしい時はいつでも言って」と常に伝えています。

 「学校に行かない、行きたくない自分」をネガティブに捉える子も多いでしょう。でも、「学校に行かない」という道を選んだ時点で、一歩前に進んでいるんです。後ろではなく、前に進んでいる。悩んでいる自分に「いいんだよ、それで」と言ってほしい。

 しんどいのは、心のエネルギーが枯渇しているから。それは全然悪いことじゃなくて、ちょっと休んで充電すればいい。ある程度休んだら、自分ができることは何だろうと考えられるときが来ると思うので、学校に行かない時間を何に使おうか自分でじっくり考えて、興味のあることをとことん突き詰めてみるといいと思います。

 息抜きは絶対に必要。今の自分を大事にしてほしい。(聞き手・植松佳香)

■略歴

 は・いち 1985年生まれ。群馬県在住。東京学芸大を卒業後、教材販売会社の社員や塾講師を経て、2012年からユーチューブチャンネル「とある男が授業をしてみた」(登録者数約193万人)で数学や理科などの授業動画や、悩み相談に答える動画などを公開している。今年3月に同チャンネルで配信した動画「いじめを経験した私が伝えたいこと」でいじめを受けた経験を語っている。

 文部科学省の調査によると、2021年度の小中高、特別支援学校のいじめの認知件数は計61万5351件(前年度比19・0%増)で過去最多だった。このうち、いじめにより、生命や心身、財産に重大な被害が生じた疑いや、相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがある「重大事態」の件数は705件だった。

■主な相談先

【#いのちSOS】

0120・061・338 日、月、火、金曜は24時間 その他の曜日は6~24時

いのちの電話

0120・783・556 毎日16~21時

【チャイルドライン】

0120・99・7777 毎日16~21時 対象は18歳まで

【24時間子供SOSダイヤル】

0120・0・78310 毎日24時間

【生きづらびっと】

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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