穏やかな口調が時折、熱を帯びた。
「毎日毎日、プーチンの悪口ばかり。最近はブチャで虐殺したと。あれ、虐殺したのはウクライナの軍、警察当局、治安当局ですよ」
4月9日、東京都文京区の区民センター。2005~08年に駐ウクライナ大使を務めた馬渕睦夫(むつお)は、講演会に訪れた約260人に向けて言い切った。記者も講演を聴いた。
ウクライナのブチャで見つかった多数の民間人の遺体をめぐっては、ロシア側が「ロシア軍が掌握していた間、暴力行為に遭った住民は一人もいない」と主張。だが、遺体はロシア軍の支配下にあった3月中旬から存在した可能性が高いことが衛星写真の分析で判明し、多くの国々はロシア軍による虐殺とみなしている。
世界を影から支配する勢力(ディープステート)がロシア支配のために、ウクライナを利用してプーチン大統領に戦争を仕掛けた――。馬渕は講演会でこうした言説を展開した。
記者は講演会後に馬渕に取材を申し込んだが、「受けないことにしている。短い時間でお話ししきれない」と断られた。
これまでの連載で、人々の口をつぐませる要因を探ってきました。最終回は視点を変えて考えます。言論の自由の礎である、事実を揺るがしかねない言説。私たちは、どう向き合うべきなのでしょうか。
馬渕は外務省を08年に退官…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル