沖縄県・宮古島沖で昨年4月、陸上自衛隊のヘリが墜落して10人が死亡した事故で、防衛省は14日、事故調査の結果を発表した。機体の左右にあるエンジン2基のうち、右側の1基で出力が徐々に低下する「ロールバック」という現象が発生。その後、左側も出力が下がって高度を保てなくなったとしたが、左側の出力低下の要因は特定できなかったと結論づけた。
事故は昨年4月6日に発生。当時の陸自第8師団長ら10人が乗る多用途ヘリ「UH60JA」が、宮古島近くの海に墜落した。海中から機体の主要部分のほか、事故時の状況を記録したフライトデータレコーダー(FDR)を回収した。
FDRを解析したところ、右側エンジンの出力低下の要因は、空気を送り込む配管の漏れや詰まりで燃料供給が滞り、出力が緩やかに落ちる現象「ロールバック」と推定した。「マニュアルにも記載のない非常にまれな事象」としている。
一方、左側エンジンの出力低下については、出力や制御に影響を与える機体やエンジンの部位に異常が起きた可能性を検討したが、それをうかがわせる証拠は見つからなかった。
エンジンが二つある機体では、一方にトラブルが起きても正常なエンジンだけで飛行することが可能だ。その場合、異常が生じた方の出力を落として飛行するのが通常の手順となっている。
回収されたFDRには異常が起きた右側ではなく、左側の出力を調整するよう乗員が発声する記録が残されていた。防衛省は誤操作の可能性があるとみて調べたが、実際に正常な方の出力を落としたことを裏付けるデータは残っておらず、機体やエンジンの部位の異常とともに可能性の一つとして記載するにとどめた。(成沢解語)
トラブル発生90秒で墜落か
防衛省が公表した調査結果からは、最初のエンジントラブルから約90秒後に海面に墜落したことをうかがわせる状況が浮かび上がった。
調査結果をまとめたのは、事故が起きた昨年4月6日に防衛省が設けた事故調査委員会。陸上幕僚副長をトップとする内部組織で、関係幹部らが議論し、ヘリを製造した三菱重工やIHI、専門家の意見も聞き取った。再発防止のため、点検回数を増やすなどの対策も講じるとした。
調査結果によると、右側エンジンの出力低下が始まったのは午後3時54分44秒で、その時点の高度は約330メートル。約20秒後には、出力はほとんどゼロになっていた。
右側の出力低下から約40秒後、今度は左側のエンジンの出力が落ち始める。このときの高度は約310メートルだったが、左側の出力低下から約50秒後には高度は約95メートルまで低下。そこを最後に左右のエンジンの出力と、ヘリの高度のデータが途絶えていた。直後に墜落したとみられるという。
エンジンが2基ある機体では、2基同時にトラブルが起きる可能性はほぼないとされる。こうしたなか、防衛省は乗員の操縦ミスの可能性も視野に原因を調べた。
回収されたFDRには緊急時に手動でエンジンの出力を調整する「ロックアウト」という操作を推認させる音声記録が残っていた。乗員が正常な左側エンジンをロックアウトするよう発声した直後、右側をロックアウトするよう言い直していたという。防衛省関係者によると、調査委員会でメーカー側は、正常なエンジンを絞ったことが原因と主張したという。
だが、約1年間に及ぶ調査でも、詳細な原因の究明には至らなかった。機体やエンジンの部位の異常とともに、乗員の出力抑制の操作を三つの可能性の一つに挙げた。ある事故調メンバーは「残っているデータが限られており、分かることも限られた」と振り返る。
航空評論家の青木謙知さんは、出力低下の要因が特定されなかったことについて「事故調査は基本的に推測の集まり。あらゆる記録から推測を積み上げ、最も可能性が高いものを残す。絶対これという要因が出てくるとは限らない」と話した。(成沢解語、上地一姫)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル