「よしっ!」
気合を入れ、長さ4メートルの棒を振り上げた。湿っているため、重い。高いところから、燃えさかる井桁に振り落とすと、辺りに真っ赤な火の粉が飛び散った。同時に刺さるような熱さが全身を襲った。
1月27日午後8時、岩手県二戸市の似鳥(にたどり)八幡神社。
400年以上前から毎年、旧暦1月6日の夜に春の例大祭「サイトギ」が開かれてきた。「オコモリ」「水ごり」「裸参り」「火まつり」からなり、五穀豊穣(ほうじょう)と無病息災を願い、その年の穀物の作柄を占う。その厳粛な神事に、記者も参加した。
火の粉の舞う方向や、雑穀で作った柱状のオコモリの崩れ具合で占う。神をまつる「祭(さい)」と神仏に供える食物の「斎(とき)」を表す「祭斎」がなまったと伝わる。
コロナ禍の影響で中止が続いたが、今年は3年ぶりに行うと聞いた。動画サイトで検索すると、極寒の中、白いふんどし姿の男たちが冷水をかぶってずぶぬれになり、勇敢に火柱に立ち向かっている。これは男前だ。すがすがしい気分になるに違いない。厳しさなんて想像もせず、すぐに参加希望のメールを送った。
前日まで日本列島を最強の寒波が襲っていた。夜間に行われる神事は2時間以上ある。ふんどし姿で最後まで務められるのか――。
青森との県境にある二戸市…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル