電子書籍を貸し出す「電子図書館」を始める自治体が、コロナ禍で急増している。一般社団法人「電子出版制作・流通協議会」(電流協)によると、昨年は全国の272自治体がサービスを実施。全国に約3300ある公共図書館(分館も含む)の約28%にあたり、前年の143自治体からほぼ倍増したという。公共図書館を持たない自治体での開始も相次いでいるが、課題もある。
電子図書館とは、来館せずにPCやスマートフォンなどで電子書籍を借りられて、24時間365日利用できる図書館だ。在住・在勤・在学している自治体の電子図書館のサイトにIDやパスワードを入力してログインする。借りた本は期限がきたら自動で返却され、職員による貸し出しや予約の作業は必要ない。
電流協のまとめによると、電子書籍を貸し出す公共図書館がある自治体は、コロナ禍以前は100に満たなかったが、2020年秋ごろから導入が進んだ。新型コロナの感染拡大で多くの図書館が休館したことや、国のコロナ対応の地方創生臨時交付金を活用できたことなどが理由という。
1月1日時点で、普及率が高いのは山口県(40.0%)、大阪府(38.6%)、兵庫県(35.7%)、東京都(34.9%)、広島県(33.3%)。電子図書館サービスの導入がないのは秋田県、福井県、鳥取県など6県にとどまる。
公共図書館を持たずに電子図書館を導入する自治体も、北海道天塩町、神奈川県山北町、埼玉県神川町など相次いでいる。こうした自治体では、公民館などに併設された施設で紙の本の貸し出しをしているところもあるが、町内に1カ所だけだったり、蔵書が少なかったりする。
専修大学の植村八潮教授(出版学)は、「今の時代に新しい図書館を建物から建設するのは大変。特に島が多い地域や山が連なる地域では地域ごとに分館を設けることも難しく、電子図書館を導入するメリットは大きい」と話す。
電流協が全国の公共図書館を対象に実施したアンケートでは、「電子書籍貸し出しサービスを導入する予定がない」と答えた割合は19年が63%、20年が43%、21年は28%と減少。コロナ禍で一気にニーズが高まっていることがわかる。
ただ、課題も多い。
電子書籍の貸し出しには、クラウドシステムを維持するための利用料が毎月かかる場合がほとんど。事業者が図書館向けに設定する電子書籍の値段は、紙の本と比べて平均で約2~3倍。1度購入すればずっと貸し出しできる本もあるが、2年間もしくは52回の貸し出しで契約が切れるなど、貸し出しに上限があり買い直さなければならない本もある。
21年から電子書籍の貸し出しを始めた関東地方の町立図書館の館長は、「国の交付金を利用して導入したが、1度買ったら契約が切れない本しか購入できなかった」と打ち明ける。購入できた電子書籍は500点未満。サービス開始から3カ月間で電子図書館のサイトを訪れた人は延べ239人で、貸し出し点数は計約150点だったという。
「コンテンツ数を増やさないと貸し出しも増えないと思うが、予算が……。今後、サービスを維持していけるか、正直心配している」と話す。
別の中部地方の町立図書館の館長は、「購入した電子書籍の利用者がいなくても、契約が切れれば自動的にその本は消えてしまう。お金をかけても『無』になるということで、需要がありそうな本しか買えなくなりそう」と、導入に踏み切れていないという。
実際に、電子書籍の貸し出しを休止した自治体もある。
秋田県立図書館では12年1…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル