電気・水道ないけれど 「自分は床屋」 倒壊免れた店で営業再開

 「ああ、髪切りたいわぁ」――。地震による建物の倒壊は免れたが、水道と電気は止まったままの理髪店が、避難所で共に過ごす常連客の声にこたえ、営業を再開した。

 能登半島地震で住宅の多くが倒壊した石川県珠洲市の正院地区。4代目の瓶子(へいし)明人さん(41)が自宅で営む理髪店「ヘアーサロンHEISHI」は20日、6人の常連客を迎えた。

 外は雨模様で、店内は薄暗い。バッテリーから給電するライト2個が手元を照らし、水とポットのお湯を避難所から持ち込んで、シャワーや蒸しタオルづくりに使う。

 「今日は避難所も静かだね。みんな金沢に脱出したんかな」。バリカンで髪を刈りながら、避難所で過ごしている男性と言葉を交わす。40分ほどで、顔そり、シャワー、肩もみを手際よく終わらせた。

 地震直後は消防団員として、家屋の下敷きになった女性の救助や、津波から高台への避難誘導をした。その後、妻子は市外に一時避難したが、自身は両親と近くの小学校で避難生活を送りながら、運営を手伝った。

 「自分は床屋だから、はさみを持つことしかできないし、これで生活している。ボランティアカットは違うかな」

 同業者から取り寄せた電動ポンプでくみ上げるシャワーや、支援物資で寄せられたバッテリーを使う営業方法を考えた。13日、電話をかけてきた常連客が訪れ、地震後初めて髪を切った。

 一帯では取材直後の午後3時ごろに、電気が復旧。店内のブレーカーを調整すると、天井の電気はついた。

 祖父が建てたという自宅兼店舗は、液状化の影響で傾いた場所もある。水道が復旧する見通しもたっていない。「もう直せんわ。ワゴンで移動式の床屋でもやろうかな。まずは、何でも屋でやらんと」(林敏行)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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