生涯を東北の復興に捧げる――。東日本大震災をきっかけに、そう決意した盛岡市出身の若者がいる。11年経った今、東北の高校生に地域に目を向けてもらう教材作りに没頭している。今年度から県内の一部の高校で採用され、さらに広げようと被災地を取材で回っている。
15日、岩手県山田町。仙台市青葉区の元新聞記者・佐々木敦斗さん(32)が同町の建設会社のプレハブ仮設事務所で社長の佐々克考さん(40)の話を聞いていた。
26歳で起業した後、被災して今に至る経緯を語った佐々さんが「つまずいたこともあったが、今は可能性しかない。でも建設業を志望する新卒者が少ない」とこぼすと、佐々木さんは「興味を持ってもらうために役に立ちたい」と力を込めた。
「これだ」教材作りに目を向けた
佐々木さんは2011年の震災時、東京大学の2年生だった。これから進路を決めようとする時に震災が起きたことに運命を感じた。すぐに地方紙にこんな投書をし、掲載された。
私たち若い世代は、これからの岩手を背負っていく者として大きな使命を与えられていると思います。大学卒業後に岩手に戻ると決心しました。大学で学びを深め、岩手に貢献できる人材となって、生涯を復興のためにささげると決意しました。
学生時代は友人らと支援物資を集めたり、被災者の生活再建の相談に乗ったりする活動を続けた。卒業後は「世の中を知るため」と新聞記者を2年半経験し、仙台で学習教材を売る仕事に就いた。だが、「必要なのはテストで点を取る力ではなく、課題解決力や思考力では」と疑問を抱いた。
教材作りに目を向けた。文部科学省が課題を調べて考える「探究学習」を重視し、新学習指導要領では高校の授業で「総合的な探究の時間」が始まると知った。でも、いい教科書は、まだない。「これだ」。昨年、独立して会社を設立し、宮城大学と共同で教材作りを始めた。
生徒の課題探しの参考になるような、地元の特色ある活動をしている人たちを取材。「あなたがこの人ならどう行動しますか?」という問いも設定し、タブレット端末やスマートフォンで見てもらうICT教材に仕立てた。
「探究のデジタル百科事典」と銘打ち、これまでに約110本のコンテンツを作った。早速、岩手・宮城・福島3県の5校が採用してくれた。問い合わせも多く、秋までに200本に増やす。
震災知らない世代へ伝えたい ひとり一人の物語
最も取り上げたいのが、震災をきっかけに人生が変わった人たちだ。ボランティアをきっかけに、課題だらけの被災地に移住した人。価値観が変わり、東北で起業した人。「震災から生まれた東北のストーリーを、全国の震災を知らない世代に伝えたい」と言う。
そして、その記事を呼んだ三陸沿岸の若者が地元に残り、地域を変えていく人材に育って欲しいとも願っている。「自分が社会を変えられると思っている若者は2割しかいないという統計もある。身近で活躍する人を知って、意識を変えてほしい」(東野真和)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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