日本郵便(東京都千代田区)の契約社員らが正社員との待遇格差について訴えた三つの裁判の上告審判決で、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は15日、扶養手当や有給の夏休み・冬休みなど審理対象になった5項目の支給をすべて認めた。継続的な勤務が見込まれる契約社員の労働条件が正社員と違うのは「不合理」などと判断し、同社側の反論を退けた。いずれも裁判官5人の全員一致の結論。
従業員約38万人の約半数の18万4千人が非正社員という巨大企業に対する、待遇格差についての初の最高裁判断。13日には退職金やボーナスの支給を認めない第三小法廷の判決が出たが、この日は実質的な原告勝訴で、非正社員の待遇を見直す動きが広がる可能性がある。
裁判は集配などに携わる男性らが東京、大阪、佐賀の各地裁に起こした。東京で3人、大阪で8人が、それぞれ10項目の手当・特別休暇がないことについて労働契約法20条が禁じる「不合理な格差」だと主張。佐賀では1人が有給の夏休み・冬休みがないのはおかしいと訴えた。
第一小法廷は、このうち5項目を審理対象として受理。不合理性の判断は賃金項目ごとに考えるとした2018年の最高裁判例をもとに、日本郵便における労働事情や条件をふまえ不合理かどうかを検討した。
扶養手当については、福利厚生を充実させ正社員の継続雇用を確保するという同社の支給目的を「経営判断として尊重しうる」としつつ、半年から1年単位で契約更新を繰り返してきた原告ら契約社員も「継続的な勤務が見込まれる」と指摘。支給しないのは「不合理だ」と判断した。有給の病気休暇も、ほぼ同じ理由で認めた。
年賀状の取り扱いで多忙な年末年始の勤務手当や年始の祝日給については、「その時期に働いたこと自体に対する対価」で契約社員も違いはないと判断した。夏休み・冬休みは「心身の回復を図る目的」で、繁忙期に限定せず働いていた原告らにも当てはまるとした。
佐賀の裁判は確定した一方、東京・大阪の裁判は各手当や休暇を与えなかったことに対する損害賠償の額を計算させるため、両高裁に審理を差し戻した。
待遇格差をめぐっては、13年4月に施行された労契法20条を根拠に裁判が相次いだ。20条は18年成立のパートタイム・有期雇用労働法(今年4月から施行)に移され、待遇差の不合理認定の基準が「賃金の項目ごとに性質・目的を検討する」とより明確になった。(阿部峻介)
日本郵便は判決を受け、「この問題の重要性に鑑み、速やかに労使交渉を進め、必要な制度改正について適切に取り組んでいきたい」とコメントした。
【最高裁判決の骨子】
・正社員の継続的な勤務確保のため、扶養手当や有給の病気休暇を与えることは経営判断として尊重されるが、相応に継続的な勤務が見込まれる契約社員に与えないのは労働契約法20条が言う不合理な格差にあたる。
・最繁忙期である年末年始に勤務したこと自体への対価である年末年始勤務手当や、年始の祝日給を、契約社員に支給しないのは不合理な格差にあたる。
・夏期冬期休暇を、繁忙期限定の短期勤務ではない契約社員に与えないのは不合理な格差にあたる。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment