食べるべきか食べざるべきか 故郷との「絆」が問われた

 食べるべきか食べざるべきか。それが問題だ――。

 東京電力福島第一原発の事故発生から1カ月余がたった2011年の春。福島県いわき市の実家の周辺では、春の山菜を食べてもいいのかどうか、という問題が持ち上がっていました。

 田舎暮らしは、旬の食べ物が毎日の食卓にのぼるのが大きな魅力の一つです。

 フキノトウやタラノメは、揚げたての天ぷらにビールという組み合わせが絶品です。新鮮なウドは酢みそあえ。ゼンマイは煮物に。タケノコも採ったその日のうちに素早くゆでてワカメを加え、みそ味の煮物にします。田んぼの土手に芽を出すワラビも、毎日とれたての味が楽しめます。実家では会津産の太くて柔らかいワラビも一年中、常備菜です。

 母の大内富美子(ふみこ)(73)に、その当時のことを聞くとこんな答えが返ってきました。

拡大する帰省して味わう母の手料理。常磐沖はアンコウやメヒカリで知られるが、ナメタガレイ(右下)も冬の味覚だ=福島県いわき市

 「タケノコもウドも食べたよ。うちのあたりは山の向きのせいか、数値が低かったみたい」

 父の義洋(よしひろ)(78)が保管している資料を見ると、近くの施設で測った事故の翌年春の放射性物質の数値が記録されていました。

 実家の母屋の裏で採れたタケノコでしょうか。あく抜き前(生)は、セシウム134が1キロあたり7ベクレル。セシウム137は24ベクレル。あく抜き後は同18ベクレル、34ベクレルとあります(ヨウ素131はともにゼロ)。飲料水などを除くと、国が定める一般的な食品の現行基準値は1キロ100ベクレルですから、食べても問題はない値でした。

 当時60代だった両親に言わせれば、「うまいんだもん、問題ないなら食うべ」。即答でした。

 当時30代だったぼくも、やはり「まあ、食べるよな。だって、うまいんだもん」。

 でも、ぼくの妻子はどうでしょうか。とくに、当時3歳の長女・長男と1歳の次男は――。はたと困りました。

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 実家の半壊や祖母の震災関連死。放射能の数値。そして両親は70歳代に――。東日本大震災の被災地である福島県いわき市に生まれ育った47歳の記者が、この10年間に故郷の農村と家族の身の回りに起きた出来事を、10回にわたってつづります。

 致死量の毒が入っているわけで…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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