JR東日本が、山手線の駅を起点にそれぞれの街の個性と人のつながりを生み出すプロジェクト「東京感動線」に取り組んでいる。地上でつながる都心の環状線という特長を生かし、これまでは「エキナカ」に象徴されるように移動と消費の拠点だった駅を、その街に暮らす人たちをつなげる拠点にしよう、という新しいアプローチだ。各駅で多彩な試みが始まっている。
JR新大久保駅直結で今春に開業した食の交流拠点「K,D,C,,,」は、多様な食文化が集まる街の特性を前面に出した。異なるジャンルや国籍の料理が混じり合って、新たな食文化の創造をめざすという空間だ。
食ビジネスの創出につなげるシリーズ講座「フードカレッジ」の7月のテーマは「納豆を通して知る食のダイバーシティ」。フードデザイナーの中山晴奈さんが、タイや韓国など世界各地の納豆文化を紹介した。講座を主催するオレンジページの鈴木健正さん(54)は「食文化の背景にある多様性を伝えたい」と語る。
「山手線は、30駅すべてで景色が違う」とJR東日本でプロジェクトを担当する古田恵美さん(45)。地上でつながる環状線は世界的にみても珍しいという。世界一の乗降客数と言われる新宿駅などがある一方、下町や高級住宅街、多国籍な街など多彩なエリアの玄関口もある。これまで「エキナカ」など移動と消費の拠点としての機能充実に力を入れてきたが、「次のステップとしてそこに暮らす人が参画して広がるフィールドに」と説明する。2018年10月に東京感動線のプロジェクトを打ち出し、これまで様々な動きが生まれている。
象徴的なのが西日暮里駅(荒川区)だ。19年10月、構内に交流拠点「エキラボniri」が開業。地域に根ざしたワークショップを開催してきた。
設計・運営を担う「ハギスタジオ」の柳(りゅう)スルキさん(28)は「西日暮里の特徴とは何か」がすぐには浮かばなかったという。駅の売りも乏しく、高輪ゲートウェイ駅開業まで駅のスタンプが「山手線で一番新しい駅」だったほど。
だが調べると、社交ダンスが盛んで映画「シャル・ウィ・ダンス?」の舞台だったり、今や珍しいアコーディオンメーカーがあったり。西日暮里の姿を発見し、講師を招く中で、新たな人脈が生まれ、内容は多彩になっていった。
この拠点づくりに関わったJR東の川井恵里子さん(32)は「この街の良さに気づくことができた。みんな、西日暮里が好きで、私もその中の一人に加われた実感がある」と笑う。
新施設ばかりではない。駅周辺の街歩きから歴史や魅力を伝える、さまざまな活動が始まっている。
池袋では今年6~7月、「街の案内人」の養成講座を開催。立教大学生や池袋で働く人らが参加し、チャイナタウンに代表される多国籍な表情や、ロサ会館周辺の古い雑居ビルが並ぶ繁華街などを歩いて学び、それぞれがツアー企画を考案した。(井上恵一朗)
「東京感動線」の取り組み例
・有楽町駅 ガス灯デザインタイルや赤レンガなど名所を写したステッカー配布
・大塚駅 飲食店や雑踏の音を収集し、楽曲を制作
・代々木駅、原宿駅 「とっておきの自然」テーマにフォトコンテスト
・高輪ゲートウェイ駅 東京スリバチ学会会長が案内する高輪の凹凸地形と歴史ツアー
・沿線の特集を組んだフリーマガジン発行
・#山手線の車窓を語ろう お気に入りの景色をツイッターでつぶやくキャンペーン
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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