「シマカン」の愛称で知られる三重県志摩市の志摩観光ホテルが月に1回だけ、30本限定で提供している押しずしや棒ずしが人気だ。発売日には、県外からも多くの食通が訪れる。2016年の伊勢志摩サミットを前に、大阪から招かれた塚原巨司・和食総料理長(52)が腕を振るう。
16日、塚原さんは早朝から厨房(ちゅうぼう)に立った。南伊勢町で養殖された「伊勢まぐろ」を前日までしょうゆだれに漬け、型にはめて丁寧に押す。すし飯は伊賀市産のコシヒカリ。飯の間に細かく刻んだたくあんを加え、薄い昆布で包むと、上品な甘さに仕上がった。
昨年9月から提供を始めたすしは、月初めに伊勢神宮にお参りする「朔日(ついたち)参り」の風習にちなみ、「ついたちすし」と名付けた。食材が傷みやすい夏場を除いた9~4月、原則として第2日曜日に販売する。
地元で水揚げされるアワビや伊勢エビ、「安乗ふぐ」、特産品の松阪牛など高級食材を使うため、1本あたりの値段は3500~5500円(税込み)と高価だ。宅配はしないため、ホテルまで取りに行く必要もある。それにもかかわらず、予約受け付けから数日で「完売」する人気だ。事前に毎月のすしを予約している客や、「前泊」してすしを求める首都圏や名古屋の客もいるという。
県内では押しずしにあまりなじみがなく、同ホテルでも、イベント料理の最後に出てくる限定メニューだった。ただ、客の間では人気が高く、松本利奈・営業企画課長(46)がオリジナル商品としての販売を提案。塚原さんは「値が張るのに、売れるだろうか」と思ったが、試しに3カ月間だけ売ることに。すると、見込み以上に評判がよく、販売継続が決まった。
3月8日発売の押しずしのネタは松阪牛。塚原さんにとっては「今まで押したことのない食材」で、ぎりぎりまで試作を繰り返すつもりだ。4月12日に出す南伊勢町産のサクラダイを使った押しずしは、かんきつ風味のしょうゆで味わってもらおうと考えている。
熊本県出身で、福岡県と大阪市の系列ホテルで働いてきた塚原さんは「三重産の食材は質量とも素晴らしく、仕事が本当に楽しい」と話す。今年9月の2期目以降は、調理の仕方も含めて更にパワーアップさせようと、意気込んでいる。(安田琢典)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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