島根県に昨年11月、ショッキングなニュースが飛び込んだ。化粧品大手、ポーラが発表した「美肌県グランプリ2020」で、島根が首位から陥落したのだ。過去7回のうち5度の総合1位に輝いているのに、今回は2、3位にも入っていない。島根の美肌は本物じゃなかったのか、昨年9月に大阪から赴任した記者が美肌のもとを訪ねた。
まず向かったのは、松江市玉湯町玉造にある清巌(せいがん)寺。全国でも珍しい美肌をお願いできるお地蔵様がいる。「おしろい地蔵」はその昔、肌荒れで困っていた女性が地蔵に団子の粉を塗ったところ、顔のいぼがとれたなどの言い伝えがある。
お参りの際は、用意されているおしろいを地蔵の顔に筆で塗る。地蔵はすでに頭から粉をかぶったように真っ白くなっている。近づくとふわっといい匂い。
「ニキビが消えますように……」。コロナ禍でマスクをするようになってからあごに表れてきたぶつぶつが気になっており、お地蔵様のあごにおしろいを塗り込んだ。
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お地蔵様に別れを告げ、美肌温泉として有名な近くの玉造温泉に。奈良時代の733(天平5)年に成立した「出雲国風土記」によると、「一度温泉を浴びればたちまち姿も麗しくなる」との記述がある。いにしえから知られた美肌の湯だ。
日帰り温泉施設「玉造温泉ゆ~ゆ」につかった。湯は無色無臭、手触りも特徴がなく、ちょっと拍子抜けだが、どんな効能があるのか。
温泉ソムリエマスターの資格を持つ藤田智加さんによると、成分の7割が肌に水分を補う硫酸塩泉、2割が肌に塩の膜を張る塩化物泉という。つまり肌を潤し、保湿する効果が期待できるのだ。
藤田さんが他に薦めてくれたのが、県西部の浜田市にある美又温泉。浜田市街から中国山地方面へ車で30分ほど行ったところにある、宿泊施設・公衆浴場9軒の知る人ぞ知る美肌の湯。細い道の両側に歴史を感じる建物が並ぶ、雰囲気のある小さな温泉街だ。
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日帰り入浴・宿泊ができる「美又温泉国民保養センター」の支配人、宮川昌巳さんは「効果を実感できる湯」と誇る。
無色透明だが、湯に入って驚いた。肌の表面にまとわりつくようにぬるぬるする。これは肌の汚れを落とす効果が期待できるアルカリ性を示すpH値が9・9と高いから。藤田さんによると、湯に入った肌の角質が軟らかくなり、肌表面がぬるぬるするように感じるのだという。地元では「あかのとれ方が違う」と評判だという。また、新しい角質の形成を助けるメタケイ酸も81・9ppmと高く「至高の肌再生の湯」とうたう。
島根の美肌要素は食にもある。注目はドジョウだ。「ウナギ1匹、ドジョウ1匹」と言われるほど高い栄養価。丸ごと食べるドジョウは、カルシウムやビタミンA、鉄分、亜鉛、コラーゲンをとることができる。
豆絞りのほっかむりにざるを持って踊る「どじょうすくい踊り」を郷土芸能に持つ安来市は、全国有数のどじょう養殖の地でもある。
やすぎどじょうセンターでは、孵化(ふか)させた稚魚を市内の農家に引き渡して休耕田で養殖してもらう形で、年間約4トンを出荷している。同センターの仙田拓也さん(35)によると、田んぼいるドジョウと異なり養殖ドジョウに泥臭さはなく、骨も軟らかくて食べやすいという。
10センチほどのドジョウを丸ごとの唐揚げにしてもらった。頭から口に入れても食べやすく、身がぷりっと歯ごたえがあっておいしい。
市内にある安来節演芸館の「どじょう亭」で食べられる柳川鍋。ふたを開けて、真っ白のドジョウにびっくり。表面のぬめりが白く変化していた。こちらはドジョウのだしの汁もおいしかった。
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県立大学の健康栄養学科長の今中美栄教授は「新鮮な食材が手に入る島根には、魚の頭や内臓、野菜の普段捨ててしまう部分までおいしく、残さず食べる文化がある。それが健康で美肌の食生活になっている」と話す。
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冬は曇りの日が多く、じめじめと湿度が高いというマイナスにとらえられがちな気候も、美肌にとってはプラスの環境だ。美肌PRを推進する県観光推進課も「島根にあるものを磨き、県としては変わらず美肌を推していきます」。
県内の美肌スポットをめぐった自分のお肌の状態はどうなのだろう。松江市にあるポーラの店舗で分析してもらった。
ニキビや化粧品についての悩みを聞いてもらい、カメラやセンサーで肌の状態を測定。少し待つと分析結果が返ってきた。肌の奥の皮下組織や真皮の状態は悪くないものの、毛穴やくすみが目立つといい、同年代や同地域に住む女性の平均よりずっと悪い結果に……。美肌にはまだ遠いが、島根にはきれいな空気、豊かな自然、穏やかな街と人がある。それらに触れて癒やされて暮らすことが美肌に続く道なのかもしれない。(榊原織和)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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