首都圏公立高、倍率低下なぜ? コロナ禍の意外な影響

 首都圏の1都3県で今月、公立高校の一般入試が行われた。コロナ禍による経済悪化で公立志望が増えるかと思われたが、志願倍率の低下や定員割れが目立つ。一方、首都圏で東京都だけが行っている推薦入試では、早く確実な合格を求めてか、倍率が上がった。(高室杏子、宮坂麻子)

千葉、1回勝負になり不安も

 公立高校の入試制度を大きく変えた千葉県。これまでは前期と後期で2回受験するチャンスがあったが、今回から一本化され、1回勝負となった。

 加えて全日制の募集定員が、1480人削減された。その前の20年度は440人減で、削減幅は近年でも際立っている。それでも、志願倍率は1・08倍。前回の前期1・68倍、後期1・30倍と比べても、かなり低くなっている。

 進学塾「市進学院」教育情報センター室の野沢勝彦さんは「国や都県による私立高校の授業料補助の拡充の影響で、私立を希望する受験生が増えていたところに、一発勝負の入試改革とコロナへの不安が重なった。公立の入試日も一本化で遅くなり、理科、社会のない3教科入試の私立で早めに合格を決める生徒が増え、公立全体では志願者が減ったのでは」と話す。

拡大する試験開始を待つ受験生=2021年2月24日午前9時40分、千葉県立千葉高校、高室杏子撮影

 今月24日、入試1日目を迎えた県立千葉高校。千葉市の男子生徒は「コロナより一本化の方がプレッシャーです」と、こわばった表情で教室へ向かった。付き添って来た母親は「なぜこのタイミングで1回勝負になったのか。学校選びに戸惑った」という。

 集合時間の約1時間前に来た別の男子生徒は「一本化で心配だったので、私立3校を受けた。けれど、第1志望はここ。迷いはありません」と語った。

 浦安市から娘に付き添って来た母親は、娘が一本化について「なんで今年からなの」と言うのを聞いた。「慣れないながらも塾のオンラインでの授業もまじめに受けていたから、きっと大丈夫と励ましました」

都立高、推薦志願は高まる

拡大する距離を空けて並びながら、消毒、受検票の確認、検温へと進む受験生=2021年2月21日午前7時46分、東京都千代田区永田町の都立日比谷高校、宮坂麻子撮影

 千葉県以外の首都圏の公立高校でも、倍率の低下が目立っている。

 全日制(一般入試)の志願倍率をみると、埼玉県は1・09倍(前年度1・12倍)で、現行の入試制度になった2012年度以降で最も低い。神奈川県は1・18倍で前年度より0・01ポイント上がったが、現行制度になった13年度以降では、前年度に次いで低い倍率だ。

 都立高校も最終志願倍率は1・35倍で、現行制度になった1994年度以降で最も低かった。定員割れした学校も58校80科2コースで、94年度以降で最多だ。

 都の学校基本調査によると、都内の高校生総数に対する私立高生の割合(本科)は、都独自の授業料軽減助成制度を拡充後の18年度から少しずつ増え続け、20年度は56・4%だった。

 ある都立高校の校長は「やはり、私立の授業料助成の影響が大きいのではないか。都立には都立の良さがある。これまで以上に魅力ある教育を心がけていくしかない」と話す。

 一方、都立高校では、首都圏で唯一行っている推薦入試の倍率がやや高まった。全日制の志願倍率は2・78倍で、前年度より0・23ポイント上昇した。都立日比谷高の武内彰校長は「コロナ禍もあって、例年以上に早く合格を得たい生徒が多かったのではないか」とみる。同校は、一般入試の志願倍率は過去4年で最低だったが、推薦入試は過去4年で最も高くなった。

 21日の一般入試当日、娘に付き添って来た父親は「小学校から私立に入れたが、本人が日比谷を受けたいと言い出した。地方育ちの私は公立が当たり前だったが、選択肢がいろいろあると選択も難しい」。

 群馬県の国立中から受験した女子生徒の母親は「みんなで一斉にスタートを切る公立高校で3年間、濃密な時間が過ごせれば、社会に出てからの底力になる。大学進学のためだけに高校生活があるわけではない。子どもには言わないけれど、浪人してもいいので、充実した高校時代を過ごして欲しい」と話した。合格したら都内に引っ越すという。

 少子化で、全国的には、県外からの受験を一部認める自治体も増えている。千葉県と埼玉県、茨城県は協定を結び、学校によっては県外の一部地域から登校することも認めている。

コロナや少子化の影響、背景に

拡大する志望校の入試会場に向かう受験生=2021年2月21日午前7時50分、東京都千代田区永田町の都立日比谷高校、宮坂麻子撮影

 倍率低下が目立つ背景には何があるのか。

 Z会進学教室の尾田哲也・御茶ノ水教室長は「大学付属校の人気が中堅校でもやや上がってきているが、コロナ禍で受験校数を絞り込む傾向もあり、一般入試では公立、私立ともに、倍率を下げたところも少なくなかった」という。今年度は説明会や行事の見学などができず、きちんと学校選びができなかった影響も指摘する。「都立なら、青山や三田の女子が高い倍率になったように、イメージが先行し、一部の学校に人気が集中した。コロナが収束して、高校側もきちんと特色などを発信していけば、倍率がそんなに大きく下がることはない」とみる。

 少子化の影響とみる声もある。安田教育研究所の安田理代表は「全国的な倍率低下と定員割れの増加が、首都圏まで来ている。本来は15歳の人口減に合わせて、定員を減らしたいが、そうなると学科や学校を統廃合しなければならず地元の反対が出る。学区撤廃も人気校・不人気校の差を拡大している」という。

 一方で、「私立は県境を越えて生徒を集められるし、大学入試の行方が不透明ななか、受験を回避できる大学付属校や、進学重点校に行けないなら私立を選ぶという動きもある」と、私立人気の背景を語る。

 ただ、公立の重要性も指摘する。「専門学科は私立には少ない。定時制や、島・山間部、進学校、困難校など様々な学校を異動し、いろんな生徒に接した経験のある教員の力は、教育には大切だ」

(変わる進学)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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