「なにもない」と言われがちな街、東京都武蔵村山市。まず、駅がない。町村を除く都内49区市で軌道鉄道がない唯一の自治体だ。多摩地域を南北に結ぶ多摩モノレールの市内への延伸が計画され、期待は膨らむが、都の用地買収は道半ば。開業が正式に決まっているわけではない。
有名な観光地や特産物があるわけでもない。志村けんさんのふるさとは、同じ村山でも東村山だ。「何がありますか?」と市民5人に尋ねたら、4人が「イオンモール」と言った。武蔵村山にとって、「鉄道がない」はもはやウリですらある。
そんな現状に、少々ご立腹の人がいる。石川伊三郎さん、91歳。「今はないけど昔はあったって言ってんのに、誰も興味持ってくれないんだよ」。小学生のころ、家の近くから鉄道に乗り、「旅」に出ていたというのだ。
新宿と青梅を結ぶ青梅街道から市中心部で北に折れると、住宅地の土手に小さなトンネルの入り口が見える。数十メートルほどの隧道(ずいどう)が四つ連なるトンネル群だ。幅、高さともに3メートル弱で、車の通行は厳しい。側面から水が染み、中に入ると、ひんやりする。少し、不気味な雰囲気もある。
「ここをトロッコが走ってたんだ。それで多摩川まで行って泳いで帰ってくる。真夏の大冒険よ」
なぜ鉄道があったのか。市歴…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル