東京都江戸川区役所に26日昼、2人の男子高校生が現れた。窓口で、「コールセンターの人たちで使って下さい」と伝えると、手紙と一緒に紙袋を置いていった。
中には包みが30個。開くと、プラスチック製の「マスクホルダー」で、手作りのものだった。
材料はクリアファイル。長方形に切り抜き、半分に折ると立体マスクの形になる。角につけた小さな磁石でガーゼを留めて使う。横向きに切れ込みが入り、笑った口元に見えるようにデザインされていた。
その出来栄えは、職員が実際の商品だと勘違いしたほど。感激した区は、手紙にある名前などを頼りに、2人に連絡をとった。
贈ったのは、区内に住む高校3年生の湯野拓也さん(18)と、石田翔梧さん(17)。都立工芸高校インテリア科の湯野さんがデザインを手がけ、小学校からの親友で駒込高校に通う石田さんが製作に協力した。
湯野さんは、数々の受賞歴を持つ実力者だ。昨秋には、台東区の「ザッカデザイン画コンペティション」に出品した革小物が「銀座松屋賞」に輝き、商品化も決まっている。
製作費約5千円には、コンペの賞金を充てたという。「買い物や、食べて使っちゃうより、いいかなと思って」と湯野さん。
手紙にも工夫を凝らし、開くと「飛び出す絵本」のように拍手する両手が現れる。見事な毛筆は、書道部所属の石田さんが書いた。
「この状況でも全力で仕事をしてくれる人に、僕たちも何かしたいと思った」と2人。贈り先をコールセンターにしたのは、「電話で、突き上げを受けているんじゃないかと思って」。
区が10万円定額給付の電話窓口を開いたのは5月初旬。以来、有志の職員100人態勢で応対してきた。2人の想像通り、罵声を浴びせる人や、「すぐ払え」「今から取りに行く」などと1時間以上、電話を切らない場合もあるという。
「優しさに、涙が出ます」と区の担当者。精神的に参ってしまう職員もいる折に届いた、高校生2人からの贈り物だった。(抜井規泰)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル