九州各県が農産物の輸出拡大に力を入れている。農家の所得を増やし、担い手減少を食い止めることにもつながるからだ。環境づくりをどう進めるか、「自治体の力」が問われている。
3月上旬のシンガポール。レストランのディナー客30人ほどのテーブルに、特別メニューが運ばれた。トマトやキャベツ、野菜の天ぷら……。現地で開かれた「鹿児島フェア」だ。
「こんなに甘いキャベツがあるのか」
そんな声があがった。キャベツを作っている同県指宿市の農家、大吉枝美さん(47)は反応の大きさに驚いた。現地の人が自分の野菜を食べる姿を見るのは初めて。「県産野菜のポテンシャルは高い。まだまだ海外に打って出られると思った」
夫と経営する株式会社「大吉農園」は2019年冬から同国のほか香港、タイなどにキャベツを輸出。当初の輸出量はキャベツ全体の収穫量のほんの一部、2.7トンだったが、22年には80倍超の234トン。収穫量全体の3割を占めるまでになった。
収穫の際にはひと玉ずつ土を拭き取り、1時間以内に巨大な冷蔵庫で保管。遠距離の輸送でも傷がつかないよう厚めの段ボールで梱包(こんぽう)する。国内よりも厳しい農薬制限に取り組み、外観のよさにもこだわる。「輸出を始めてから商品自体がハイクラスになり、販路が拡大したことで経営の安定感も増した」と大吉さんは言う。
少子高齢化や過疎、働き手不足、空き家問題など山積する課題に、九州・山口の自治体は、どう対応しているのでしょうか。さまざまなデータを足がかりに、人々の暮らしにもっとも近い現場で奮闘する「自治体力」のいまを探ります。
きっかけは19年秋の商談会だった。土作りからこだわる大吉さんのキャベツが、「ドン・キホーテ」などを運営し、海外事業も手がける「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)」の担当者の目に留まった。実際に輸出が始まると、ほかの業者からも声がかかるようになった。
商談会を主催していたのは農…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル