熊本市で20日に開かれた第67回九州吹奏楽コンクール(中学校の部)で、離島の小さな学校が快挙を成し遂げた。多くの団体が30~50人の編成で臨むなか、今大会最少の15人でエントリーした名瀬中(鹿児島県奄美市)が金賞を受賞。体調不良で2人が急な欠場を余儀なくされ、本番は13人でステージに上がったが、少人数ならではの息の合ったハーモニーを見せた。
「ピンチはチャンスだよ」。コンクール5日前の練習で、顧問の南知亜紀先生(33)は2人目の体調不良者が出たことを告げ、そう呼びかけた。だが「今度ばかりはピンチです……」と部員らは苦笑いを漏らした。
名瀬中は大半が複数の楽器を掛け持ちし、クラリネットとアルトホルンという異例の二刀流も抱えるほど。特に自由曲「ドラゴンの年」は難しい曲として知られ、譜面通りなら30以上のパートをこなす必要がある。
欠場の2人はいずれも打楽器。パートリーダーの小野璃莉奈さん(3年)は「このままだと、バスドラム(大太鼓)もシンバルもなしですよ……」と、焦りを口にした。どちらも曲の盛り上がりでアクセントとなるため、外せない。そもそも4人で手分けしていた担当を2人で回すのは無謀に思えた。南先生も頭を抱えた。
「でも、これまでの2人の努力を無駄にはできない」。小野さんはそう思い直し、「私たちにできるベスト」を探り、新しい配置を提案した。小野さんは少人数で自由曲を仕上げるため、打楽器パート4人の動きや分担を細かく把握し、知恵を絞り続けてきた。「曲作りをする上で璃莉奈の存在は本当に大きいです」と、南先生も全幅の信頼を寄せる。
本番の前日、熊本入りするバスの中で、南先生がみんなにあるものを渡した。一緒に舞台に上がれなかったメンバーが一人ひとりに宛てた手紙だった。自宅には「九州大会まで9日」と書いたホワイトボードも置いてあったという。感極まって涙を流す部員らに、南先生は言った。「2人の気持ちも熊本に連れて行って『15人で』演奏するよ」
迎えた本番。自由曲の冒頭、スネアドラムの鋭いリズムが会場の静寂を破り、管楽器とバスドラムの重低音が約1800人を収容する大ホールに鳴り響いた。演奏中、小野さんら打楽器パートは舞台の上をせわしなく行き来しながら、何台もの楽器を手にリズムを刻み、曲のダイナミックな雰囲気を支えた。
金賞の結果を聞いた部員らの表情には、笑いと涙が入り交じっていた。出場できなかった2人はライブ配信で演奏を見守ったという。小野さんは「支えてくれた先生や島の人たち、そして2人に、精いっぱいの音楽を届けられたと思います」。これまでの苦労をかみ締めるかのように、静かに涙を流した。(加治隼人)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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