JR西日本が11日、ローカル線30区間の収支を初めて公表した。100円の収入を得るのに2万円以上の経費がかかっている区間もあるなど、路線を維持していく厳しさが浮かび上がった。ただ、生活に欠かせぬ足として利用している人もいるだけに、沿線からは「廃止は避けて」「収支だけで判断するな」とさまざまな声が上がった。
芸備線(広島、岡山)
今回公表対象になった30区間で、必要経費に対する収入の割合を示す「収支率」が悪かったのが、広島県庄原市の芸備線東城―備後落合間だ。2017~19年度の平均は0・4%。100円の収入にかかる経費は2万5416円にのぼる。
「一部区間の廃止は仕方がないのではないか」
4月上旬の平日夕、人がまばらな東城駅で待機する50代のタクシー運転手の男性は嘆いた。備後落合に向かう列車は1日わずか3本で「通勤、通学の時間とダイヤが合っていない。駅からの足が不便なので高齢者も使わない」。
近隣の学校関係者によると、生徒の大半も鉄道ではなく、家族らが運転する車やバスで通学しているという。
ただ、利用している人にとっては貴重な足だ。
通学で2年間使っている地元の高校生、山下育(すぐる)さん(17)は「小さい頃から親しんできた。バス通学になると定期代の負担が増えるのでこのまま走り続けてほしい」と話す。
JR西は昨年8月、「同区間の課題を洗い出す」として、広島、岡山両県などと協議を始めた。一部廃止も視野に検討する可能性がささやかれている。
鉄路の存続に危機感を抱いた沿線住民たちも呼応し、昨年夏に市民団体を結成した。地元のショッピングセンターで「たる募金」を実施するなどして300万円超を集め、広島東洋カープをモチーフにした赤いラッピング列車を走らせている。
「古く、くすんだ色の車体は寂しい」との声をきっかけとしたアイデアで、全国の鉄道ファンの心もつかんだ。事務局長の住田則雄さん(72)は「収支だけですべて決めていいのか、という思いはある。地元の盛り上がりはいままさに、高まりつつある」と話した。
広島県の湯崎英彦知事は11日、JR西日本の収支公表について「なぜ2千人未満の区間だけなのかはよくわからないが、議論のベースとしての情報提供は非常に重要で良いことだ」と指摘した。
芸備線東城―備後落合間の赤字額が年平均2億6千万円だったことについても触れ、「広島のほかの線区で利益が出ていることを考えると、赤字額はそれほど大きくない」との見方を示した。
庄原市の木山耕三市長は「鉄道は全国をつなぐ『広域ネットワーク』として構築され、一部の区間のみを切り取って議論するのは適切ではないと考える」とのコメントを発表。市外からの乗客を呼び込むなどの利用促進策を続けていく考えを示した。
芸備線では、備中神代(こうじろ)(岡山県新見市)―東城間の収支率もわずか2・4%だった。岡山県の伊原木隆太知事は11日、報道陣に「大切な生活路線。できる限り、利便性を維持してもらいたい。続けられなくなったといきなり言われても、『そうですか』とならない」と語った。
ただ、「我々が『減便も許さない』、JRが『廃線にさせてもらいます』と激突した場合、法的にはJRが決める権利がある」とも指摘し。広島県や沿線市町村とともに意見集約し、JR西と協議していく意向を示した。
(大久保貴裕、松田史朗、吉川喬)
木次線(島根、広島)
宍道(松江市)―備後落合(広島県庄原市)の81・9キロを結ぶJR木次線。収支率は宍道―出雲横田(島根県奥出雲町)間で7・6%、出雲横田―備後落合間は1・5%にとどまった。
木次線を走る観光トロッコ列…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment