白い壁に解説パネル、ガラスの向こうにお行儀よく納まる美術品。京都国立近代美術館の「チェコ・デザイン 100年の旅」展は、そんな四角四面な展覧会のイメージを覆す遊び心に満ちている。
拡大する「チェコ・デザイン 100年の旅」展はここからスタート。もともとの白い壁が合板と防獣ネットで覆われている
会場に入ると、薄い合板と防獣ネットの組み合わせでできた巨大な構造物に迎えられた。4カ国語で書かれた解説の紙は上端を赤いテープで留められ、くるりと丸まる。むき出しの木材が建築現場を思わせる趣向は、1930年にベルリンで開かれた住宅建設組合の展覧会を模したという。
通常は施工会社に任せることの多い展示デザインを自ら手がけたのは、設計事務所在籍の経歴を持つ本橋仁・特定研究員。花瓶や食器などの立体物を並べた造り付けのガラスケースは鑑賞者との間にもう一枚、額縁のように木のフレームを挟んだ。
拡大する既存のガラスケースを木枠で区切り、キャプションと展示品を別の空間に置いた
拡大するフランチシェク・ミーシェク、エピアク社「カフェモカセット」1928年=チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
「デザイン展で展示するのは生活に密着したモノ。近くにキャプションがあると『作品』になってしまう」。無粋な文字情報は木枠を隔てたこちら側に置くことで、過去と現在、時代のレイヤーを切り分ける試みだ。
さて、第1章の幕開けを飾るのは、プラハの国民劇場の支配人の肘掛(ひじかけ)椅子。オーストリア=ハンガリー帝国の支配下にあったチェコで、自国語のオペラの上演を目指して建設された象徴的な劇場だ。アールヌーボーにスラブの民族性を融合させたアルフォンス・ミュシャは、人気女優サラ・ベルナールを描いたポスター「ジスモンダ」で時代の花形となった。
拡大するヤン・コチェラ「肘掛椅子(国民劇場支配人室用)」1902年=チェコ国立プラハ工芸美術館蔵。背景のプラスチック段ボールには、グラフィックデザイナーの西村祐一さんによるチェコ語の章扉を掲げた
拡大するアルフォンス・ミュシャ「ジスモンダ」1894年=チェコ国立プラハ工芸美術館蔵
1910年代には、フランス由…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル