12歳で就職、80歳で知った勉強する楽しさ 学び直しの母校が危機

 全国で唯一、卒業資格が取れるとされる東京の中学校通信課程の存続が危ぶまれている。千代田区立神田一橋中学校の通信教育課程で、生徒は3年生が1人だけ。来年度に入学生がいなければ休校になる。区教育委員会は募集対象を大きく広げ、今月19日まで来年度入学の生徒を募っている。

 同課程は1948年、一橋中(当時)の通信教育部として設置された。高校入学に必要な中学卒業資格が取りたい人や、学び直したい人から人気を集め、79年度にはピークとみられる171人が入学した。

 区教委によると、中学の通信教育大阪市立天王寺中学校にもあるが、卒業資格が得られるのは神田一橋中だけという。天王寺中では学べるのは最大5教科で、学んで得られるのは教科ごとの「修了証」のみだ。神田一橋中では通常学級の授業のない土日に年間20日間の登校日があり、授業や課題でほかの中学生と同じ9教科を学ぶ。2020年度時点で701人が修了または卒業したという。

 ただ、最近は新入生が1人という年も多く、20年度と21年度はゼロだった。現在の在籍生徒は、19年度に入学した90代女性1人のみだ。同校によると、女性は「学ぶことが生きがい」と話し、卒業に向けて学習を続けている。

 区教委によると、生徒がいなくなった場合は休校して教員の配置がなくなり、通信教育のノウハウが途切れかねない。休校が長引けば廃止もあり得るという。

 こうした状況を知った市民団体「夜間中学校と教育を語る会」(浦川文秀会長)は今春、同校を廃止しないよう求める署名活動を始めた。8月までに1032筆を集め、区教委や文部科学省に提出した。

 これを受けて区教委は、昨年度は現在の87歳以上に当たる「尋常小学校卒業や国民学校初等科の修了者」に限っていた入学対象を、中学で十分学べなかった65歳以上にも広げることを決め、今月1日から募集を始めた。

 堀越勉校長は「特に戦後間もないころは、様々な事情から学ぶ機会を奪われた人もいたと思う。学ぶ意欲がある人に、ぜひ来て欲しい」と話す。

 夜間中学校と教育を語る会の関本保孝さん(67)は「より多くの人に学びの場を保障することが重要で、対象が広がったことを歓迎している。近年は、ひきこもりなどで十分に学べなかった若者も多く、年齢にかかわりなく通信制中学の教育を受けられるよう、国には法改正を求めたい」と言う。

 来年度の入学願書は今月19日まで受け付けている。対象は、①尋常小学校卒業者か国民学校初等科修了者で、中学を卒業していない人②諸事情で中学で十分学べなかった、都内在住か在勤の65歳以上。12月4日に学力試験と面接がある。問い合わせは神田一橋中(03・3265・5961)。

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〈中学校の通信教育〉 戦中戦後の混乱期に中学を卒業できなかった人で、仕事などがあり、毎日授業がある夜間中学校にも通えない人のために、対面教育が原則の義務教育の例外として1947年成立の学校教育法に盛り込まれた。文部省(当時)の省令で尋常小学校卒業者か国民学校初等科修了者が正規の対象とされているが、それ以外に学びたい人も校長判断で受講できることになっている。

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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