16世紀、西洋との交易で栄えた平戸は「フィランド」と呼ばれた。firando代表の小値賀布美華(おじか・ふみか)さん(34)=長崎県平戸市=はこの由緒ある名をスイーツのブランドにして、平戸固有の歴史と菓子文化の「復刻」を表現する。昨年10月に売りだした塩生キャラメルと濃厚プリンは、短期間のうちに東京の大手百貨店が取り扱うようになった。
4年前、自宅近くに「心優(ことゆ)スイーツ」の店舗兼アトリエを構えるまで専業主婦。2人の子どもの将来へ思いを巡らせながら、起業を決意した。「平戸には選択できる職業が少ない。でも、行動を起こせば自分の好きなことができる。そんな姿を子どもたちに見せたかった」
市が企画した起業塾で事業計画や市場調査を学び、中小企業診断士の助言を受けて創業。商品開発は子どもが眠ってから。ネット市場を見据え、インスタグラムやフェイスブックで情報を発信し、大手通販サイトで売り上げを伸ばした。ふるさと納税の返礼品でも人気を集める。
スイーツ市場にはたくさんの競合商品と価格競争が渦巻く。どうやって付加価値を高めるか。物事を体系立てて考える性分と感性を掛け合わせ、考えついたことは-。
「平戸にしかない歴史や自然で、たった一つの物語をつくり、商品にのせて伝える」。こうして誕生したブランドがfirando。「フィランドって何だろう」とお客さんが思ってくれれば、平戸の魅力に興味を持ってもらえる。
2019年度の県特産品新作展で最優秀賞(菓子・スイーツ部門)に選ばれた塩生キャラメル「MANGETSU」は、西洋伝来のキャラメロを現代風にアレンジ。平戸唯一の酪農家の生乳、満月の夜にくみ上げる塩を使う。やさしい甘さの中に、豊かな歴史も溶け込む。
「平戸は海外と交易し、人種を超えた多様性を受容してきた。そのストーリーがいとおしい」。今こそ、地方の強みを発揮する時。外から平戸がどう見えるかを意識しながら、次の戦略を練る。(前田隆夫)
私の好きな和菓子
「創業200年以上の平戸の老舗和菓子店、熊屋さんの麸(ふ)まんじゅうです。もちもちとした食感で、ほかにはない味わいです。一つがちょうどいい大きさなので、何度食べても飽きません。熊屋さんにはfirandoのプリンに使うカステラを作ってもらっていて、店に行けるときに買っています」(小値賀さん)
西日本新聞
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