第74回全日本合唱コンクール全国大会(全日本合唱連盟、朝日新聞社主催)が、30日の高校の部から始まります。今年は初めて、すべての部門で「ライブ配信」が行われます。配信特設サイト(https://www.asahi.com/brasschorus2021/choruscompetition.html)で申し込むと、全国大会で競い合う学校や団体の歌声を、どこにいても聴くことができます。
3年前の第71回全日本合唱コンクールで、音楽担当記者だった私は中学・高校部門の演奏を聴いて総評を書きました。どの学校も丁寧に曲想を練っていて、繊細なピアニッシモの一糸乱れぬロングトーンや、どっしりした低音と朗々と響く高音による立体感、不協和音をも心地よく聴かせる説得力など、それぞれに素晴らしくて心が震えました。そして、このコンクールのために、どれほど厳しい練習を積み、試練を乗り越えてきたのだろうかと思いをはせました。
私は小学4年から高校2年までの8年間、まさに「合唱漬け」の日々を過ごしました。きっかけは、私が通う小学校の合唱団がNHK全国学校音楽コンクールの全国大会で2位に入ったこと。当時小学2年生だった私は、もともと歌うことが大好きだったので、「入団できる4年生になったら絶対に入る」と心に決めたのです。
小4で合唱団に入ると、厳しい練習が待っていました。放課後は毎日暗くなるまで、夏休みの練習は毎日4時間。腹筋を鍛えつつ、体の力を抜く呼吸法を学び、のどの奥を開いて鼻に声を響かせるためにスプーンで舌を押さえて歌ったこともあります。毎日1人ずつラの音で声を出し、「○」か「×」で先生に採点されるのですが、なかなか「○」と言われず、周りの先輩たちを観察して必死に練習しました。やがて30人ほどの選抜メンバーに入り、コンクールの舞台にも立ちました。懸命に努力すれば道はひらけると実感した、最初の体験でした。
原宿で号泣した日
ただ、NHKのコンクールでは、私が小5のときは東京地方2位で、小6では同じく3位。全国大会に届かなかったことが悔しくて、NHKホールから原宿駅まで、竹の子族が踊っている横を、皆で号泣しながら歩いて帰ったことを今でもよく覚えています。
中学高校はミッション系の女子校で聖歌隊に入り、校内の礼拝やコンサートで歌う一方、クラス対抗の合唱大会や聖歌隊で指揮者を務めました。発声を教え、曲想も考えながら、最も悩んだのは仲間たちをどうまとめるかということで、泣きながら本音をぶつけ合ったときもありました。集大成だった高校2年の聖歌隊コンサートが終わった日は、皆で夜通し語り合い、翌朝は近所の誰もいない公園でコンサートの曲をもう一度歌いました。かけがえのない、大切な思い出です。そのときの仲間たちとは、高校卒業から30年以上たった今も連絡を取り合っています。
昨年度はコロナ禍のため、文化芸能の催しの多くが取りやめになりました。全日本合唱コンクールも中止になり、その舞台に向けて練習を続けていたみなさん、特に卒業前の最終学年だった生徒たちにとっては、胸が張り裂けるような出来事だったと思います。
開催へ、あらゆる工夫
感染防止対策を徹底した上でコンサートなどが開催されるようになっても、飛沫(ひまつ)感染の不安から、「歌」に向けられる視線は厳しいものがありました。全日本合唱コンクールをめざすみなさんも、フェースシールドやマスクをつけたり、距離を空けたり、オンラインでパートごとに分かれたりするなど、さまざまな工夫をして練習に臨まれたと聞いています。
一人一人が大変な努力を重ねて、2年ぶりのコンクールの舞台で歌いきったことに自信と誇りを持ってください。そして、この苦難の日々を共に過ごし、乗り越えた仲間たちとの絆は、これからの人生の支えになるはずです。
実をいうと私は、高校生の頃からロックに傾倒し、大学ではバンドサークルに入ってハードロックバンドで歌っていました。朝日新聞社に入社した後も、仕事で知り合った人たちとバンドを組んだり、学生時代のバンドでライブに出たり、三線を弾いて沖縄民謡を歌ったりと、合唱とは全く違う分野で歌い続けて今に至ります。ただ、どんな曲を歌うときも、小学校の合唱団で体にたたき込まれた腹式呼吸と、のどに負担をかけない発声法が役に立っています。そして、歌うことの喜び、楽しさも合唱に教わりました。
ライブ配信、一人でも多く
全日本合唱コンクール(高校部門)では毎年、全ての演奏が終わってから審査結果が発表されるまでの間、客席で「歌回し」が行われます。各校が次々に持ち歌を披露し、手拍子が広がっていく様子を見ると、コーラスっていいな、歌うって楽しいな、と実感します。
今年は感染防止対策のため表彰式がなく、歌回しも行われませんが、ライブ配信でコンクールを見ることができます。一人でも多くの方々にご覧いただき、生徒たちが歌声に込めた思いを感じていただければ。私も自宅でじっくり聴きたいと思います。
ライブ配信の視聴申し込みは特設サイトへ(https://www.asahi.com/brasschorus2021/choruscompetition.html)。(坂本真子)
プロフィール
さかもと・まさこ 東京都出身。区立小学校の合唱団で歌い、女子学院中学・高校で聖歌隊に所属。立教大学在学中は「作詞作曲部OPUS」でロックバンドを組み、オリジナル曲を歌っていました。1992年、朝日新聞社に入社。ポピュラー音楽担当記者、紙面とデジタルの編集者などを経て、現在は人事部で社員研修やインターンシップを運営。80年代Hard Rock&Heavy Metalと、沖縄民謡をこよなく愛する50代です。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル