総額2億8千万円相当の金とプラチナの延べ板(計30キロ)が、大阪府箕面(みのお)市に寄贈された。贈り主は元料理店経営の87歳男性で、20日に市が発表すると、大きな話題を呼んだ。どうして寄付したんですか? 男性に改めて会いに行き、寄付に込めた思いを聞いた。
「お世話になった恩を返しただけ。こんな反響があるとは思いませんでしたわ」
22日、箕面市の自宅で、中嶋夏男さんは笑顔を見せた。
中嶋さんが経営していたのは、箕面川にほど近い料理店「銀なべ」。30歳のときに開業し、64歳で引退するまで腕をふるった。
看板メニューは牛肉のどて鍋。産地を厳選した牛肉と特製みその相性が抜群で、地域を代表する人気店だ。
夏男さんは1936年、石川県の西谷村(現・加賀市)で生まれた。中学校を卒業後は、実家の農業を手伝っていた。取引先に、山中温泉(加賀市)の料理旅館があった。
何度も通ううちに、旅館の料理長に気に入られ、「板前にならないか」と誘われた。
当時18歳。料理の世界に飛び込み、技術は先輩の姿をまねて覚えた。
広島・尾道の料理店でも修業した。名物は土鍋にみそを塗りつけ、カキや野菜を煮込んでみそを溶かす郷土料理の土手鍋だった。
箕面に来たのは1960年、23歳のときだ。箕面公園の中にあった料理旅館で働き始めた。箕面の滝や秋の紅葉、瀧安寺(りゅうあんじ)などを目当てに、多くの観光客が公園を訪れていた。
料理旅館で7年働いて独立し、阪急箕面駅そばに「銀なべ」を開いた。そのとき、「店を手伝おうか」と声をかけてくれたのが、同僚だった章子さん。年齢は一回り上で、姉のように慕っていた。後に結婚した。
銀なべの当初の名物は、イノシシのぼたん鍋。尾道のカキの土手鍋を参考にした味付けだった。ぼたん鍋は冬だけなので、ほかの肉を試し、牛肉の土手鍋をメインにした。
「地域で一番の店になりたい」。その思いで、早朝の仕入れから、仕込み、料理と一日中働いた。章子さんも持ち前の明るさと笑顔でもてなした。店は繁盛し、開業3年後には章子さんと一緒に暮らす家を建てた。
この時期に常連客から勧められたのが、金の取引だった。
夏男さんに趣味はなく、店の…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル