大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)で児童8人の命が奪われた殺傷事件から8日で19年。同校の危機管理マニュアルに今春、当時の詳しい状況と反省点が「事件の教訓」として初めて記された。事件を経験し、3月まで同校に勤めた前校長の佐々木靖・大教大教授(58)が「学校安全を願う多くの人々と事件の教訓を共有したい」と加筆した。(森嶋俊晴)
- 大阪教育大付属池田小事件
- 2001年6月8日午前10時すぎ、包丁2本を隠し持った宅間守元死刑囚(04年に死刑執行)が校内に侵入。四つの教室や廊下などで児童らを襲い、1年生男児1人と2年生女児7人が死亡、児童13人と教諭2人が重軽傷を負った。
訓練、経験したことのないリアリティー
4月6日、付属池田小で教職員31人全員が参加する新年度初の不審者対応訓練があった。
授業中に不審者が校舎内に侵入して複数の負傷者が出る想定。教職員は危機管理マニュアルに基づき「対策本部」「アトム」「児童対応」「救助」「救護」の5班に分かれた。大半の参加者は訓練内容を知らされないまま、自分の役割を果たすことが求められた。
「子どもに近づけない。時間をかせぐ。大声、ホイッスルの活用」(アトム班)▽「ペアでWチェックして児童捜索」(救助班)など、訓練前には班ごとに目標を確認して発表した。
訓練は、不審者と参加者がもみ合いになり、別の参加者が校舎内に314個ある非常ボタンの一つを鳴らして始まった。
対策本部がある職員室には、不審者や負傷者の情報がひっきりなしに寄せられ、白板に書き出して情報を共有。警察・消防役の教員に電話して110番・119番通報の訓練もした。
開始から約5分後、アトム班がさすまたなどで不審者の動きを封じ、警察役に引き渡した。同時に、救急搬送される負傷者に付き添う教員を決め、負傷児童の保護者に電話連絡。児童が校舎内に倒れていないか捜す訓練なども進めた。すべて終わったのは約20分後だった。
全員が参加した反省会では「目の前の対応に追われて本部への連絡が後回しになった」「110番や119番通報をしたことがすぐわかるよう、カードを用意しておき、通報したらホワイトボードに張る運用を」などの声が上がった。
参加者のうち5人は4月に着任したばかり。アトム班の高山翔平教諭(35)は「経験したことのないリアリティーがあった。事件を二度と繰り返さないという強い決意を感じた訓練だった」。児童対応班の永松希美教諭(38)は「不審者役が目の前を走り抜けた時、怖くて脚が震えた。子どもにどんな言葉を掛ければいいのか。そこから学ばないといけない」と話した。
4月に着任した真田巧校長(52)は発生時、6年生の担任だった。危機管理マニュアルについて「当時、私たちが話し合った反省点や課題が書かれている。きちんと生かしていきたい」と話す。
ひとり残った前校長が記した考察
「重大事案に遭遇した時、自分一人でなんとかしようと考えてはなりません」「学校のすべての子どもたちをすべての大人で守る必要があります」
同校の危機管理マニュアル「学校安全の手引き」には4月、新たな項目「付属池田小学校事件の教訓」(7ページ)が加わり、53ページに増えた。
事件後の03年に付属池田小が作った内部資料「祈りと誓い」には、「反省と教訓」として当時の詳しい状況が記載されている。事件当時の同校教諭で、2011年から今年3月まで校長を務めた佐々木靖・大教大教授(58)がそれを引用した上で、自らの考察も書き添えた。
危機管理マニュアルは事件後の法改正で全国の学校に作成が義務づけられた。同校は事件直後、5ページの「不審者対応マニュアル」を作り、改訂を重ねてきた。しかし、不審者対応については「IDカードをつけていない人物が校内にいる場合、教職員は声をかけ、静止させる」「状況によっては校内放送で『(不審者対応を担当する)アトム班の先生、○○へ集合』と呼びかける」などと記されているだけ。前身の小学校を卒業した漫画家手塚治虫の代表作にちなんで名付けられた「アトム班」の由来をはじめ、一つひとつの物事や行動の理由には触れていない。事件の教訓も「教職員は最善のことができなかった」と述べるにとどまっていた。
佐々木さんは「マニュアルを作った頃は、事件を体験した先生ばかり。書かなくても教訓を共有していた」と振り返る。
17年からは、当時を知る同校の教員は佐々木さんだけに。赴任した教職員には、初日に必ず事件やマニュアルについて、体験も交えて説明してきた。
3年前からは大教大の専門職大学院の教授を兼任し、講義で事件の教訓を伝えている。「自分の頭の中にあることを文字に残さないといけない」との思いが強くなったという。「事件の教訓をきちんと伝え、共有することで、学校の安全に役立ちたい」と願う。
■付属池田小学校事件の教訓(抜…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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