いつか、おやじのように-。憧れの父と同じ職を目指していた男性は、成人式のわずか1週間後に夢を絶たれた。福岡市の貨物船内で後進するトレーラーの誘導作業中、トレーラーとコンテナに挟まれ死亡した。運転手の40代の男=自動車運転処罰法違反罪で公判中=は飲酒していたが、事故現場が船内のため道交法違反(酒気帯び運転)罪には問われていない。「多くの遺族が飲酒運転撲滅と声高に言うけど、私たちはその前提にも立てない」。両親は憤りと無念さを抱え、道交法改正を求める。 3児死亡事故14年 地蔵の前で手を合わせる地元住民 男性は両親から「クニ」と呼ばれていた港湾運送会社社員の木塚國義さん=福岡県宇美町、当時(20)。笑顔の遺影の周りには友人との写真が何枚も飾られ、父とおそろいのネックレスや20歳の誕生日に母が贈った腕時計など思い出の品が飾られていた。「クニは正義感が強くて家族思い。友達も多かった」。母美紀さん(46)は声を詰まらせる。
「父の背中を見て育ったから同じ仕事をしたい」。父龍二さん(46)の後を追ってトレーラー運転手になるため、就職先を決めた國義さん。「おやじ、どげんしたらいい?」。仕事場や実家で龍二さんに助言を求め、大型免許の取得に向け勉強していた。 事故は昨年1月20日未明に発生。國義さんは福岡市東区の岸壁に係留中の貨物船内で笛を吹きながらトレーラーを誘導していた。運転手の男は数日後、木塚さん宅を訪れ謝罪し、言った。「酒を飲んでました」 県警の調べで男の呼気から基準値を超えるアルコール分を検出したが、道交法は主に道路が対象で適用は見送られた。男は自動車運転処罰法違反(過失致死)容疑で書類送検、在宅起訴された。公判の情状面で飲酒は考慮されるとみられる。
「トレーラーは全長十数メートル。バックはただでさえ難しいのに酒を飲んでするなんて信じられない」。トレーラーの後進に絡む事故を何度も見て怖さを知る龍二さんは、身勝手さに怒りが収まらない。「プロの運転手がどうして飲酒運転するのか。余計許せん」と美紀さん。大好きなトレーラーに挟まれた最期に「たまらなかったと思う」とおえつを漏らす。 3児死亡事故から14年、飲酒運転はなくならない。トレーラー運転手と同じプロドライバーの飲酒事故も増えている。「法律を変えれば飲酒運転はなくなるんだろうか…」。両親は道路外でも道交法が適用されるよう法改正を訴える一方、複雑な思いも拭えない。 「クニを忘れ去られるのは耐えられない」。成人式の日、会いに来た息子を何度も抱きしめた時のぬくもりが、今も残っている。 (梅沢平)
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