5年前、父を失った知床の海 不明者捜索に参加した漁師の特別な思い

 北海道・知床半島沖で、26人を乗せた観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故。地元漁協による31日の大規模捜索に特別な思いで臨んだ漁師がいる。「第八豊照丸」船長の熊谷憲雄さん(45)。事故後、行方不明者の捜索に初めて参加した。

 午後4時すぎ。強風が吹く中、ウトロ漁港(斜里町)に漁船が一斉に戻ってきた。「波が高かった」。捜索から戻った熊谷さんは、仲間の漁師たちにそう話した。

 熊谷さんも5年前、同じ知床沖で漁師だった父親を失った。行方不明になった父はいまも、見つかっていない。

 父親は、カズワンが出港したウトロ漁港を拠点とする小型観光船の船長だった。漁師を一度やめた後、再び海の仕事がしたくて選んだ道だった。幼い頃に母親が離婚した熊谷さんにとって、義理の父親だった。優しかったが、漁の仕事を手伝うと厳しく怒られることもあった。

 2017年6月14日。この日はウトロ漁港で開かれる祭りの前日だった。いつも通り、父は午前10時ごろ、観光客を船に乗せて漁港を出発した。熊谷さんも会社の漁船を迎えに港に向かった。

 午後1時ごろ、熊谷さんが勤める会社の漁船が漁港に戻ってきたのが見えた。だが、何かがあったのか、突然進行方向を変えて、そのまま海へ引き返していった。

 「クルーザーから人が落ちたらしい」

 漁船に電話すると、救助要請が入ったと伝えられた。そのまま待っていると、「船長だったようだ」「お前の父が海に落ちたらしいぞ」。矢継ぎ早に連絡が入った。

 「どういうことだ」。問わずにはいられなかった。

 父が操船する観光船は午後1…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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