【緑の最前線】2020年施行の改正漁業法は日本の沿岸漁業を救えるのか
水産庁は、北太平洋から南下し、常磐沖など日本の漁場に来遊する可能性のあるサンマの資源量(存在量)は今年後半には約97万トンに止まると推定している。大不漁だった17年(60万トン)に次いで低い水準になると予想している。
暑さを嫌う寒流魚のサンマは地球温暖化の影響で水温が上昇気味の日本近海には来遊せず、公海水域に向かってしまう恐れもある。しかも小ぶりで脂の乗りも少なく秋の味覚、サンマを楽しみにしている多くの愛好家を失望させてしまいそうだ。
危機感を募らせた日本など8カ国・地域でつくる北太平洋漁業委員会(NPFC)は、7月の年次会合で2020年からサンマの漁獲枠の上限を設けることを決めた。サンマの漁獲量の低迷に悩む日本は17年から同委員会で数量制限枠の導入を提案してきたが、中国が2年連続で反対し交渉は決裂していた。
今回の交渉でも中国側は当初反対したが、日本などがこのままではサンマの資源量が枯渇してしまう恐れがあることを科学的調査による証拠を示しながら説得し、各国の賛同を得たため中国も渋々受け入れた。サンマの国際的漁獲枠の設定は今回が初めてだ。
会合で決めた上限は、公海と排他的経済水域(EEZ)合わせて約55万6千トン。内訳は公海(中国、台湾などが中心)が約33万トン、EEZ(日本、ロシアなどが中心)が22.6万トン。NPFC科学委員会は持続的に漁をするための漁獲量を年間「40~55万トン」と推定しており、この枠を超えると枯渇化の恐れがでてくる。昨年の各国の漁獲量の実績は合計約44万トン。
日本は45万トン程度の上限枠を目指していたが、最終的には中国への配慮から科学委員会の上限という緩い規制になってしまった。それでも規制枠が設定されたことは大きな成果と言えるだろう。今後資源量に見合う上限規制が可能になるからだ。
北太平洋全体での日本の漁獲量は20年前には9割を占めていたが、今や3割程度、台湾と中国が6割を占めている。
日本に限ると、サンマの漁獲量はかつて20万~30万トンで安定していたが,この数年は10万トン前後で低迷している。特に大不漁だった17年は8.4万トンまで落ち込んだ。
不漁の原因については温暖化などによる海洋環境の変化だけではなく、中国や台湾が1千トン以上の大型船で大量に漁獲している影響も無視できない。公海で大量に捕獲してしまうため、日本近海に来遊するサンマがその分減少してしまうことになる。
実は日本の沿岸漁業は今、大きなピンチに見舞われている。サンマに限らず、イワシやサバなどの大衆魚の資源量が減少しており、回復を図らなくてはならない魚種が増えている。さらに漁業に従事する人の数が60年代初めには70万人を超えていたが、93年には32.5万人へ半減し、最近では15万人程度まで減少している。しかも高齢化が目立つ。
打開策として昨年12月、改正漁業法が衆議院本会議で可決、成立した。2020年末までに施行される。現行の漁業法は1949年に制定された。その目的は漁場の総合的、高度活用と漁業の民主化など。内向きの地域振興に力点が置かれていた。
今回、70年振りに改正された漁業法は、(1)持続可能な資源管理のために管理基準値(資源量、漁獲水など)を設定、(2)魚種別の漁獲可能量(TAC)の導入などグローバルな視点に立ち資源の維持、回復、増加に力点が置かれている。
国連などの海洋資源管理ルールに近い内容になっており、今後の北太平洋のサンマの漁獲枠設定にも法制面から貢献できそうだ。
■三橋 規宏(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース