物忘れが進んだ母の持ち物を整理していたとき、高額な外貨建て保険の契約書類が見つかった。為替変動によっては損失が出る保険を、80歳を超える母が本当に契約したのか。家族で起こした裁判から浮かんだのは、「違法」な勧誘の実態だった。
長女にあたる女性(54)らが貸金庫に保管されていた保険証券を確認したのは、2016年秋のことだ。母(87)は15~16年にかけ、外資系の保険会社と二つの外貨建て保険を契約し、計約6千万円を支払っていた。そろばんで家計簿をつけ、クレジットカードすら持たない堅実な母。おかしい。どうして加入したんだろう。
円で保険料を支払って外貨で保険金を受け取る外貨建て保険は、為替の動き次第で元本割れ(支払った代金を下回る)して損失を出す可能性がある。契約を担当した保険会社の男性社員に問い合わせると、「会社がもうからない究極の保険です」と説明した。「契約の証拠」として、約款などを持つ母の写真まで送ってきた。疑念はますます膨らんだ。
保険会社反論「意向に沿った」
母は、希望に沿わない保険に加入させられたのではないか――。そう考え、保険会社に損害賠償を求める訴えを18年に起こした。
保険会社は裁判で、「契約は(公的年金とは別の私的)年金を継続的に受け取りたいという本人の意向に沿っていた」と反論。為替リスクは「誰もが簡単に理解できる」と主張した。
だが、東京地裁は昨年11月の判決で、80代という契約時の年齢を踏まえ、今後20年以上にわたって年金を受け取れる保険に「興味があったとは言いがたい」と指摘。継続的に年金を受けたい希望をかなえるとしても、「リスクのある外貨建て保険にする必要性は全くない。勧誘がなければ加入していなかったといえる」とした。
その上で、顧客の目的に合うよう商品を提案することを求めた金融商品取引法上の「適合性の原則」から著しく逸脱したとして、勧誘方法の違法性を認定。損失分など約656万円の支払いを保険会社に命じた。ただ、契約時に発症していたとみられる認知症による影響はないとされた。
女性は、男性社員が契約までの間に母との食事を何度も繰り返したり、遺言作成を提案して自ら証人になったりしたことについて「やりすぎではないか。高齢者なのだから、丁寧に意向を確認するべきだ」と訴える。
女性の母の代理人弁護士は、東京地裁の判決を「高齢者への勧誘の仕方次第で契約が違法になる可能性を示した」と評価。違法な勧誘の抑止につながるとも話す。保険会社と女性側は控訴している。(新屋絵理)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル