クマの出没が相次ぎ、人里にまで迫る。被害は農作物にとどまらず、人にも広がる。そこで少しでも危険を減らそうと、福島県内では人工知能(AI)を活用してクマを追い払う実証実験が始まっている。果たして、救世主となり得るか。
8月、会津美里町の山あいの畑にカメラや青色の回転灯、センサーなどが付いた高さ43センチ、幅30センチ、奥行き17センチの装置が3台設置された。野生動物の食害から農作物を守るため、畑は電気柵で囲まれている。装置はその継ぎ目に置かれた。
まずはセンサーで動物の動きを察知し、小型カメラで撮影。AIがその動物をクマと判断すれば、約10秒後に青色の回転灯が点灯し、警報音とともに周囲に注意を呼びかける。また、約1分半後にはクマの出没情報を事前に登録した住民にメールで送る仕組みだ。
大きなクマのパネル写真をカメラに近づけると、装置は反応した。ただ、会津大学上級准教授の斎藤寛さん(45)は「確実にクマであることをAIがきちんと認識するように、さらに覚え込ませる学習が必要だ」と強調する。
斎藤さんはデジタル回路の設計技術が専門だが、子どもが通う小学校の通学路にクマが出没し、クマの危険性は身近な問題になった。どうにか安全な環境を作りたいと3年前からクマに絞った研究を始め、大学の同僚2人と警報システムの開発にこぎつけた。
しかし、装置の設置から1カ月が過ぎたが、まだクマの姿は捉えられていない。
センサーは正面一方向しか判別できず、撮影中に動物が動くと、撮影のタイミングを逃した。また、クマは夕方から朝方にかけて動きが活発になるため、これまでは夜間撮影用のカメラを取り付けていたが、日中はAIがクマを判別しづらい弱点もあった。そこで、カメラも日中と夜間のモードが自動で切り替わるものに取り換えた。
実証実験は3年ほど続け、今後も改良を続ける。地元の区長の児島宗一さん(69)は「システムがクマだけでなく、イノシシも含めて追い払うことができるように精度が向上すれば助かる」と話す。また、地区には耕作放棄地がヤブになっている所もあり、「何が潜んでいるかわからない。地区の人たちと協力して手入れをしていかなければならない」と装置だけに頼らない思いも語った。(上田真仁)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル