ALS嘱託殺人、医師「願いかなえた」 検察「正当行為に当たらず」

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)の依頼を受けて殺害したなどとして、嘱託殺人罪などに問われた医師、大久保愉一(よしかず)被告(45)の裁判員裁判の初公判が11日、京都地裁であった。大久保被告は殺害を認めた一方、「(女性の)願いをかなえるために行ったことです」と説明。弁護側は大久保被告が殺害しなければ、「女性は『望まない生』を強いられ続けたことになる」と指摘し、正当な行為で無罪にすべきだと主張した。

 大久保被告は2019年11月、知人の元医師、山本直樹被告(46)と共謀。京都市内の女性のマンションを訪れ、女性の依頼を受け、胃に直接栄養を送る「胃ろう」に薬物を注入し、急性薬物中毒で殺害したとして起訴された。

 検察側は冒頭陳述で、大久保被告が医療行為に見せかけて障害者らを殺害することに強い関心を持っていたと指摘。そのための「マニュアル」を執筆し、医療知識を悪用して犯行に及んだとした。女性は死期が迫った状態ではなく、大久保被告が女性の病状を詳しく把握せずに殺害した上、報酬も受け取っており、「正当な行為に当たるはずはなく、刑事責任が問える」と訴えた。

 一方の弁護側は、個人の尊重を定めた憲法13条に沿って、無罪主張を展開した。「自分の生き方を決められるということは、生き方の最期も決められるはずだ」と指摘。女性はALSの症状で自死することができずに大久保被告に依頼したとし、「被害者の願いを実現した行為に嘱託殺人罪を適用して処罰することは、憲法に違反する」と述べた。

 大久保被告は嘱託殺人事件のほか、11年3月に山本被告の父(当時77)を山本被告らと共謀して殺害したとされる殺人罪にも問われ、「私はやっておりません」と起訴内容を否認した。入院していた長野県内の病院から退院させて東京都内のアパートに連れて行き、何らかの方法で殺害したとされるが、弁護側は「山本被告が父と室内に入り、大久保被告が呼び入れられた時には心肺停止状態だった」と訴えた。

 検察側は有罪の根拠となる証拠として、大久保被告の「マニュアル」の一部を示し、「証拠が残らない」「人を殺してもバレないシチュエーションがある」などと記されていたとした。山本被告に送信したメールも示され、「棺桶」という件名のメールでは、火葬場に関するインターネットサイトを大久保被告が伝えていたとした。

 二つの事件をめぐり、山本被告はすでに裁判の一審が終わり、嘱託殺人事件などで懲役2年6カ月(求刑懲役6年)、父殺害事件で同13年(同20年)の判決を受け、控訴している。

 大久保被告の12日の第2回公判では、山本被告に対する証人尋問が行われる予定。(光墨祥吾、西崎啓太朗、森下裕介)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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