記者コラム「多事奏論」 岡崎明子
人生で1度だけ、五月病になりそうだったときがある。入社した年のことだ。
初任地は、縁もゆかりもない広島支局だった。新人記者は警察署を回り、口の堅い警察官から「ネタ」を取るという修業を通じて、記者としての基礎体力を養う。
私は毎朝、「おはようございます。とくに変わりはありませんか」の後が続かなかった。先輩に相談すると「カープの話とか何でもいいんだよ」と言われたが、選手の名前も知らない。ちょうどJリーグが開幕した年で「これだ」とサンフレッチェ広島のことを話題にしてみたが、スルーされた。
もともと人見知りだったのだが、以来、以前にも増して「雑談力」に苦手意識を持つようになった。
そんな私が、雑談をあれほど恋しく思う日がくるとは。3年前の春、コロナの感染拡大で子どもの小学校が休校となり、在宅勤務を選択せざるを得なくなったときだ。
同僚の出張土産を「おいしい」と言いながらほおばる、ドラマの話で盛り上がる――。何げないやりとりに、実は自分が癒やされていたことに正直、驚いた。
だから再び出社の機会が増えたときは、できるだけ周囲との雑談を心がけようとした。しかしそこで再び、壁にぶつかった。
突然、自席に来て話しかけら…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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