地球温暖化の主な原因となっている二酸化炭素(CO2)の回収装置を家庭やオフィス向けに提供するサブスクリプション(定額制)サービスを国内の団体が始めた。SNSでは称賛の一方、装置の性能に対し問題を指摘する声も上がっている。サブスク提供側と、否定的な専門家に直接、考えを尋ねた。
大気中のCO2を直接回収する技術は、ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)と呼ばれ、国内外で研究開発が進められている。回収までに費やすエネルギーや発生するCO2との収支、経済性などが課題となっている。
そんな中、2020年設立の一般社団法人・炭素回収技術研究機構(東京、村木風海〈かずみ〉代表理事・機構長)が「世界最小のCO2回収装置」と紹介する装置「ひやっしー」のサブスクを始めた。
同機構のウェブサイトなどによると、既に病院、公的機関や個人の家庭などに納入しているという。現在、オフィスや家庭・個人用に年額50万円以上の定額プランで提供している。
ひやっしーはスーツケース大のサイズで、装置の内部にはカートリッジとして水酸化ナトリウムを含む液体がある。取り込んだ空気に含まれるCO2をこの液体が吸収する仕組みだとしている。取り込んだCO2の60~80%を吸収できるという。
X(旧ツイッター)などでは「スゴイ!天才」「衝撃と歓喜!」「世界中に広まるといいね」といった称賛がある一方、「逆にCO2の発生量を追加で増やすだけ」「環境問題にまったく寄与しない」といった批判も上がっている。
批判の中心は、ひやっしーがCO2を吸収しても、調達する水酸化ナトリウムの製造・輸送過程や装置の生産時などに排出されるCO2の方が多ければ、環境負荷はむしろ大きくなるという点だ。
化学が専門で、問題点をXでも指摘している山下誠・名古屋大教授は「(水酸化ナトリウムの溶けた)アルカリ水溶液にCO2を吸わせているだけ。アルカリ水溶液を作るのに出てしまうCO2より少ないCO2しか吸収できない」と説明する。
同機構の村木さんは、装置全体の製造からリサイクルまでを含めたCO2排出量について、「部品点数が多いのでまだ計算が終わっていない」と説明する。
稼働時については、同機構もコンセントにつないだ場合は発電所でのCO2排出量の方が多い可能性があることを認めており、太陽光パネルを付けることを推奨している。
回収したCO2を含んだ使用済みのカートリッジは「ラボで保管している」と村木さん。回収したCO2から石油代替燃料をつくる構想を掲げているが、実現していないのが現状だ。
CO2の収支や処理方法が定まらない中で同機構がひやっしーのサブスクを始めたことについて、物理学者の菊池誠・大阪大教授は「『こんな発明をしました』と提案をする分にはいいが、商売にするにはまだ早い段階だと思う」と指摘する。
ひやっしーの普及を進めている狙いについて、村木さんは「ボタン一つ押せばCO2を減らせる存在があるんだって知ってもらいたい」と語る。「科学の尺度だけで計れないビジネスの話をやっているので、科学界からの批判はあるかもしれないが、そうやって研究停滞させてたらいつまでも何も解決しない」と主張する。
現在23歳の村木さんは高校生の時に総務省の事業で、ひやっしーにつながる開発の支援を受けた。
東京大理科1類から工学部に進み、今年3月に中退。在学中に東大で講義するなどして注目されてきた。21年には国の研究推進事業の広報役を担う内閣府ムーンショットアンバサダー、23年には文部科学省の「核融合の挑戦的な研究の支援の在り方に関する検討会」委員に就いた。メディアへの露出も多い。
同機構のウェブサイトでは村木さんを「化学者」「社会起業家」などと紹介している。
同機構では、地球温暖化を食い止めたり、火星移住を実現したりするための研究開発を進めており、20人体制(3月31日現在)という。村木さんは「30年の時点で1万人とか10万人とかのNASA(米航空宇宙局)やJAXA(宇宙航空研究開発機構)を超える研究所にしていこうと考えている」と話している。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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